決意


 
過去幾人もいた魔女という存在
幾人もの魔女は歴史の影にひっそりと身を潜め
数人の魔女は歴史の表舞台へと現れた
魔女が魔女として存在する証は魔法の力
魔女へと与えられるのは、強大な力と悲しみと苦しみ
過去延々と続く魔女の存在は、代々の魔女の罪
遙かな過去から続く何者かの呪い
魔女は、その時の終わりを激しい後悔と共に迎える
魔女として生きた時の中に現れるいくつかの選択
その何れを選んだとしても、彼女達へと残るのはただ一つ
それは、魔女と成りし者の宿命

与えられる刺激に微かな反応も返さない身体
眠りよりも深い眠りの中を彷徨う意識
血の気の引いた皮膚はまるで人形に似たその様は………
「わからないね、全く手の施しようが無いよ」
医務室のベッドの上、戦いの直後から昏倒したままのリノアの姿
戦いの衝撃や“魔女”からの強い圧力に気を失っただけかと思っていたが、どうやらそうでは無いらしい
「何か魔法の影響を受けているんじゃないかい?」
怪我を負った生徒達を診るついでにリノアを預かっていたカドワキ先生が、手の施しようが無いと知らせてきたのが先ほどの事
「魔法の影響?」
確かにこうやって間近に見ていると、眠り続けるその様子は何処か不吉な感じがする
「そうさ、その子は魔女のすぐ傍にいたんだろ、何らかの魔法の影響を受けたと考えてもおかしくないさ」
カドワキ先生の言葉に、誰からとも無く顔を見合わせる
相手は強大な力を持った魔女
確かにどんな力を持っていたとしてもおかしくはない
「何をされたかはわからねぇのか?」
まるで死んだように眠り続ける姿
このまま眠ってるだけだっていうなら、それは大した問題にはならねぇが
戻らない意識
それはそれで問題ではあるが、それよりも魔女が何らかの仕掛けでも残しているかもしれねぇ
「私に解るわけないだろ、魔法の事なんかさっぱりだよ、こういった事は魔法の専門家に聞くべきだね」
少しばかり緊張した面持ちでの問いかけに、カドワキ先生はそっけなく言葉を返した

「一括りに“魔女”といっても個々人で扱える魔法に差があります」
過去、アデルは使えなかったが、イデアには使える魔法
未来の魔女が使っていたけれど、イデアには扱えない魔法
先代の魔女が使えたが、他の誰も使えない魔法
代表的な魔法はどの魔女でも使えるが、その他の魔法は、その魔女自身によって、それぞれ特色が出るのだと言う
「魔女の魔法については、私達本人よりも、研究者の方が詳しいでしょう」
掛けられた魔法の事を知らなければ、どういう結果をもたらすのかは魔女同士であっても知ることは出来ない
「研究者?」
問いかけの声に、イデアの目が変わる
強い決意を秘めた目の色
「魔女研究の第一人者、オダイン博士の事は知っていますね?」
告げられた名前に、思い出す小さな記憶の数々
魔法研究の第一人者、オダインの名が付いた魔法器具の数々………
「ええ、名前位は………」
「未来の魔女は、魔女の力を持つ私の身体を操ります、逆を言えば魔女である私の身体を操る事しか出来ない様です、ですから、私はオダイン博士の元へ行き、魔女である私を………魔女の力を無くしてしまいたいのです」
魔女である事を止める?
できるってのか?
「出来るかどうかは解りません、その方法を聞くためにもオダイン博士の元へ、エスタへと向かいます。彼女の事は、その時一緒に質問してみてはどうでしょう?」
「エスタ?」
魔女の力を無くす事も、ついでにリノアの事を聞くのも問題はねぇ、むしろ良い手じゃないかと思う
だが………
「エスタに向かうんですか?」
「今もエスタにいるかは解りませんが、オダイン博士はエスタの研究者でしたから、まずはエスタへ向かうべきでしょう」
サイファー達、事情を知るSeeDの間に沈黙が訪れる
エスタにはエルオーネが居る可能性が大きい
もし鉢合わせでもしたらどうする?
「………サイファー」
同じ事を思っているのだろう、不安気な視線がサイファーの元へと集まる
「………そうだな、いい手だとは思うが、少し打ち合わせの時間をくれ」
イデアの中に居る魔女にこの事を聞かせる訳にはいかない
エスタに向かうにしろ、向かわないにしろ、細かいことを打ち合わせる必要がある
「………何か考えかあるのですね、解りました、あなた方の結論を待ちましょう」

そして当初の予定通りにエスタへと続く道を探すガーデンの姿
それから夕暮れの中、F.H.から続く海上の線路を歩くSeeD達の姿があった

 To be continued


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