胎動



 
重苦しい空気が辺りに満ちている
エスタを訪れた目的を聞かれて答えたエルオーネの名前
連れ去った事は調べが付いていると、誤魔化される事を覚悟の上で追求した
そして帰ってきたのは長い沈黙、値踏みする様な強い視線
沈黙と視線が重い空気を作り出している
背後で、沈黙に耐えかねた奴が身動ぎする気配が伝わってくる
「―――っ」
何事か口を挟みかけて、周りの奴等が無理矢理口塞ぐ
駆け引きの場にそぐわない雑然とした気配
内心背後の気配に舌打ちしながら、視線は逸らすことなく目の前の男へと合わせる
不意に鋭く見つめていた男の視線が緩む
「それで、用事があるのは彼女になのか?」
音をたてて扉に鍵が掛かる
「それとも、彼女の事に関して、用事があるのか?」
部屋の中には俺達の他に、目の前の男と扉を背にした男が一人
2人だけが残っていた

エスタへ
“魔女イデア”が残した言葉通りにガルバディア沖、セントラ大陸に近い場所に沈んでいた古い施設
海水に濡れ錆び付いていた古い機械は一見動きそうにも無かったが、“魔女”の言った通りに刺激を与えてやれば今まで見て来たどの機械よりも滑らかに動き出した
『ソレは宇宙より私の僕を呼ぶための装置』
以前使用したガーデンよりも高く迄上がった機械の中で、兵士達が教えられたまま機械を操作する
『引き上げたなら、エスタに向かいなさい』
この装置は教えられた通りの場所に沈んでいた
そして、教えられた通りに動かすことが出来た
既に滅んだと聞かされていた“沈黙の都市エスタ”
“魔女イデア”の言葉よればもうすぐ、もうすぐ見えてくるはず
「街が見えます!」
兵士の報告を聞くと共に彼は、レンズを覗き込んだ
遠く微かに見える巨大な都市
「“魔女イデア”の言った通りだ………」
そう、あの人の言うことに間違いは無い
だから………
『エスタ大陸で装置を使って私の僕を呼びなさい、そして待ちなさい次の命令と“私”を』
言われたとおりの事をしなければならない
「このまま直進、都市上空通過時に例の装置を発動させろ」
歯切れ良い返事が返ってくる
次第に迫ってくる巨大な建造物達
移した視線の先にうっすらと月の姿が見えた

頭の中で警告が鳴る
次第に大きくなる嫌な感じ
窓の外に見える月が遠く蠢いている
月に住むモンスター達の姿はここからでは見えないけれど………
観測室に設置された幾台ものモニター
そこに映し出されていた不気味な姿
何処からとも無くわき出すモンスター達
不意に思い浮かんだ光景に悪寒が走る
「準備が整いました」
「おう、んじゃあ帰るか」
何処か遠く、会話が聞こえる
「………スコール、行くぞ?」
肩に触れた手が、月へ向いていた意識を現実へと引き寄せる
足を踏み出したスコールの背後で、月の表面のモンスター達が大きく蠢いた
 
 

 To be continued


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