魔女アデル4



 
不意に意識が浮上した
長い間“私”を押さえつけていた“力”が僅かに弱まった
“私”を覆う巨大な意識に生じたほころび
時間を忘れるほど長い間、“私”の元に居座っていたソレが動いた

アデルが伸ばした腕の中で、リノアの姿が消える
力の爆発の中に上がった誰かの悲鳴
強い光に閉じた目を開けた時
目の中に信じられない光景が飛び込んできた
取り込まれた、もしくは同化
“魔女アデル”の中に吸い込まれる様に沈んだ身体
アデルの胸元に浮かぶ顔
「―――リノア!?」
呼びかけとも悲鳴ともつかない声に、リノアの顔が歪む
言葉を発しようと口が動く
声は聞こえないけれど泣き出しそうな顔が、とりあえずは彼女が無事なことを教えている
張りつめていた空気がほんの僅かに緩む
リノアが居なくなったら、魔女を倒す手段を失ってしまう
そうならなかった事への安堵
ほんの僅かな気のゆるみ
それは多分致命的な―――
“魔女”はこの瞬間を見逃す筈も無く
―――致命的であったはずの隙
避ける事の出来ない攻撃が来て可笑しくない筈だった
魔女がゆっくりと視線を巡らす
今なら行けるわ
脳裏を言葉が過ぎるよりも早く、キスティスは“魔女”へ向けて攻撃を放った

“私”はぎこちなく瞳を開ける
まるで、身体を動かす手段を忘れていたかのように“私”は一つ一つの仕草を想い出しながらぎこちなくも辺りを見やった
目に映るのは、“私”を取り囲む少年少女の姿
見覚えのない人々
彼等の手には武器が在り、ソレは“私”に向けられている
―――殺意の籠もった目が私を見つめている
一体何があった?
“私”の目に見覚えのない部屋が映る
見覚えのない場所
“私”が封じられている間、何があった?
疑問の声は音に成らない
彼等から逃れようと動かした足は動かない
―――リノア
彼等の声が聞こえる
“私”に向かい“私”ではない者を呼ぶ声
そして…………
―――――――――
身体が熱い
身体のあちこちが火がついた様に熱い
そして“ずるり”と何かが抜け出していく感覚
もう一度“私”を覆い尽くそうとする気配
突然“私”の直ぐ目の前へ1人の少女が現れた
感じ取れる気配、覚えのある“力”
―――“魔女”
“私”の身体から熱が流れ出していく
身体から血が零れていく
“私”を取り囲む彼等の姿
武器を手にした彼等の姿
ようやく、終わることが出来る
不意に浮かんだ言葉、心の奥から沸き上がる安堵
“私”の身体から生命がこぼれ落ちる
「―――!」
誰かの声が聞こえる
誰かが交わす言葉が聞こえる
目の前の少女が両手を広げた
身体の奧にあった“魔力”が吸い取られていく
“力”の消失
それが“私”が感じた全て
―――ようやく解放される
それが“私”の最後の思考

 To be continued


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