はじまり3



 
死ぬことが出来ない
ソレの事に気が付いたのはいつ頃の事だったのか
多くの魔物を滅ぼし、人としての私を見失ってしまった頃
誰かの陰謀だったのか、偶然だったのか
私は力を手に入れてから初めて重傷を負った
命を落としても可笑しくは無い程の重傷
人の範囲から逸脱した私の元へと留まった僅かな人達が、助からないと覚悟を決める程の重傷
怪我を負い、長い間苦しんだ
そう長い間苦しんだわ
助かるはずのない重傷を負った人間が、怪我に苦しみ………
………そして1月後には元に戻っていた

―――あいつっ
よろめきながら孤児院へと向かう姿は、未来の世界で倒した筈の相手だ
あの瞬間、まだ息があったのだとしても、あの魔女は未来の魔女だ、こんな過去の世界に居るはずは無い、無いが………
時間圧縮が解放される瞬間に、未来にある筈の身体がこの時代に紛れ込んだのか?
サイファー自身も過去のこの世界に存在している
時間圧縮にこだわった魔女が本来自分が存在する筈の時間から抜け出したとしてもおかしな所はない
だが、問題は場所だ
様子からするとそう長くはもたねぇって感じだが、相手はあの“魔女”だ、油断はできねぇ
サイファーは鋭い舌打ちをすると、孤児院を目指して走り出した

どれほど願っても死ぬことの出来ない身体
“人”ではないものだと見せ付けられた事実は
私の側に残っていたほんの僅かな人さえも立ち去らせた
もしかしたら、最後まで残っていた者もいたのかもしれない、けれど、彼等は簡単に死を迎えることができたから………
私は、世界にただ1人取り残された
いつの間にか私が力を求めていた理由である争いも無くなって
誰も強い力を欲しなくなった
………むしろ、力は疎まれた
―――私は無用の存在
真実が運んできたのは絶望
私は人の世界から身を隠して………
………どうやっても死ぬことの出来ない自分を知った
私の中に存在する力が私を死から引き離す
そうやって長い時を過ごして、私は1つの方法を見つけ出した

怨嗟の声だけが聞こえる
スコールには影響を与えない“魔女”達が向ける恨みの声
「“魔女”は後継者を見つけ出さなければ死ぬことは出来ない」
幾度か聞いた言葉
「逆に言えば、後継者を見つけさえすれば、死ぬことが出来るの」
“魔女”が淡々と、けれど暗い目をして言葉を連ねる
「私は私が死ぬことが出来ない原因を知っていたわ」
渇望した力、その力を手に入れた為の出来事
「だから、私はソレを私から切り離すすべを探した」
そうして見つけ出したのが、他の誰かが犠牲になる術
 

 To be continued


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