はじまり10



 
目に映る景色が歪む
見えていた光景に他の景色が紛れ込む
圧縮された時間が解きほぐれていく
どこか遠くから呼び声が聞こえる
音にならない声が、この時間から足を踏み出す事を促している
「―――サイファー、戻ろう」
声をかけたサイファーの姿は、空間に紛れ込もうとしていた

魔法の力を感じる
私を、いいえ世界を取り囲む強大な魔法の力
私よりも数段強い力に、身体の奥が凍る様に冷える
―――恐怖
決して敵う事のない相手の存在に私は恐怖を覚える
これが“魔女”の力
姿を消した魔女の力が今なお辺りを覆っている
これほどの強い力の持ち主は………
イデアは目の前に居る見知らぬ少年達へと声をかけた

辺りを取り巻いていた魔法の力が、2箇所へと収縮していく
目の前に居る2人の少年の元へと魔力が集っていく
どこか苛立ったような表情で“彼”が周囲へと視線を投げる
強い魔法の力が働いている
彼等の周りで、彼等2人だけを飲み込もうとしている
消えてしまう前に早く―――
空へととけ込むかの様に揺らぎ始めた姿に、私は焦りを感じる
彼等は何者なのか、それよりも消えてしまった魔女の行方
これほどの力を持った“魔女”が力の継承もすませる事無く………
言葉を聞きたい
実感する事が出来るように、彼等が消えてしまう前に、私が感じた事は真実なのか、その言葉―――
「―――サイファー、戻ろう」
ずっと私に背を向けていた少年がそう言って振り返る
「時間圧縮が解けたら戻れなくなる」
サイファー?
よく知った名前に、私は目を見張る
2人の少年の顔
「あなた達は………」
微かに残る面影
違った意味で手を焼かせる2人の子供
彼等へ向かって無意識のうちに踏み出した
「ママ先生を苦しめる悪い魔女は倒したぜ」
得意そうな笑顔がそう告げる
「………私を?」
私を苦しめる“魔女”そんな存在の事を私は知らない、知らないけれど………
「あなた達は何をしているの?」
私を知る知らない人達
「―――みんな居るの?」
ここに居る2人は、私が知るあの子達
強大な力が2人へ魔法をかけている
「ああ、いるぜ」
彼の声に重なって、子供の声が聞こえる
「あいつらも悪い“魔女”を倒すために戦っている」
自慢げに話すサイファーの後ろから
「あなたが考えた“魔女”を倒すための兵士を育む学園で、“兵士”として生きている」
とげのある言葉と強い視線が私を射抜く
「兵士?それはどういう………」
強い力が消失する
私の疑問に答える事無く
私の望む言葉を口にすることなく、彼等の姿は私の前から消えていた

手を伸ばせば届きそうな場所を時間が通り過ぎていく
通り過ぎていく未来の時間
“今”に近い過去の時間
目の前を流れる過去の時間に心が惹かれる
あの時に違う行動が取れるなら
あの時間に真実を伝えられたのなら
―――そういえば、さっきエスタへ行けと言えば良かった
遠目に見た幼い頃の自分の姿
ぼんやりと考えながら、スコールは自分が戻るべき時間へと手を伸ばした
 

 To be continued


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