魔女の記憶


 
波の音が聞こえる
近くて遠い、音が聞こえる
幾重にも重なる波の音は、重なり合う時と世界のようだ
視界に映る崩れ落ちた建物の中に幻が見える
在るはずの無い光景と居るはずの無い姿
―――“魔女”の姿が見える

時折現れる記憶の欠片
顔も知らない誰かの記憶
途切れ途切れに浮かんで消えて………
それが誰のどんな記憶なのか知る事も出来ない位、小さく細切れの記憶の数々
幾人もの人の記憶
暖かいくせに、悲しい記憶が訪れる
まるで、忘れずにいて欲しいと語りかける様に

海風が強く吹き付ける
知ることのない
知るはずの無かった姿が浮かぶ
“魔女”の記憶が残る場所
ここは“魔女”の還る場所
呪われた力を手に入れて
悲鳴を上げた“魔女”の優しい記憶が残っている
―――記憶なんか見せて、どうするつもりだ?
問いかけに返る言葉は無い
記憶の持ち主も、記憶を見せようなんてきっと思ってはいない
ただ、記憶を閉じこめていた箱に隙間が空いただけ
たまたま漏れだした記憶に、ただ触れただけ
漏れ出ていることに気が付いただけ

幻が浮かぶ
知らない景色
知らない出来事
次々と浮かぶ光景
不意に大きく、水音が響く
辺りに広がる、1枚の記憶
見覚えの在るソレに、強く目を閉じる
―――――――
船が立てる音が聞こえる

唐突に始まった幻は
唐突に姿を消した
残されたのはいつもと変わらない日常
―――“魔女”の気配は感じない

 End