監 視



 
「他国の技術は遅れている」
短い期間だが、他の国を回る事によって得た実感
他の国々はエスタの技術を自分達の物にしようと様々な手段を講じてきている
確かにこの技術力は産業になり、様々な交渉での武器になる
けれど
「馬鹿正直に全ての技術を公開する必要は無い」
存在する技術の一部を隠匿する事
永い歳月に渡って技術を独占する事はできないかもしれない
だが、例え短い期間であっても、知らない技術を持っている事は強みになる
「確かにその通りだ」
否定の声は聞こえない
「それで、どの技術を何の目的で使うつもりだ?」
問いかけの言葉に、躊躇うことなく、幾つかの言葉が告げられ
反対者が出る事なくその意見は採用された

エスタが恐れるもの
それは今も昔も変わらない
「エスタでは“魔女”に関する研究も行われていると聞いたのですが………」
「行われていたのは昔の事で有り、現在“魔女”の事例に関して研究を行っている者はおりません」
問い合わせに顔色一つ変えることなく返答が返される
「今は行われていないとしても、以前の研究は残されているのでしよう?」
「“魔女”に関する研究のみならず、当時の様々な技術や研究成果は、“魔女”の統治下に於いてその大部分が破棄されております」
笑みを浮かべる事無く淡々と言葉を返す
告げている内容は事実だ
確かに“魔女”の手によって、この国に存在した技術や資料はその大部分が廃棄されている
「そんなはずっ………」
「そもそも当国で行われていた“魔女”の研究は彼女達の力を削ぐこと、封じ込める事を目的としたものでした」
荒げかけた声を静かな声が制止する
「その様な研究を当の“魔女”が残しておくはずも無いでしょう」
ガルバディア、そしてガーデンから“魔女”に付いての研究成果への問い合わせ
新旧の魔女の力を押さえ込もうとしているのか
それとも“魔女”という存在からの解放の方法を探っているのか
そんなものがあるならば、そもそもイデアを宇宙に放り出すなんて策を取る必要が無かった
「それならせめて………」
「現在当国では“魔女”の来国を許可しておりません」
“魔女”を一度調べて欲しいという要望
魔女の力を継承しているのか、その力はどれほどのものなのか
―――どの程度危険な存在なのか
「当国の“魔女”による被害は大きく“魔女”の来訪を歓迎できる程傷は癒えてはおりません、ご配慮下さいますようお願いします」
最初から最後まで、変わらない口調で告げる
幾つかの断りの言葉の後、通信が切られる
「魔女が危険だなんて、こっちは充分知っているっていうの」
彼女の口からため息が零れる
「そうだな」
気のない返事と同時に、手元の機械が操作される
モニタに映し出される“魔女”の姿
友人らしい相手と交わす脳天気な会話が流れだした

「第一に必要なのは、通信技術の制約」
宇宙を介した通信設備
見張りをつける為に必要な技術の数々
将来に備え“魔女”の動向を見張り、魔女の力の行く先を把握する必要がある
過去の後悔と教訓
それを元にエスタは、魔女と距離を置きながら魔女を見張る事を決定した
 
 

 End