食事事情



 
玄関を開けるとコーヒーの良い香りがした
スコールが両手にコーヒーを持って階段を登っていく所
「お客様?」
なるべく声を潜めて聞く私に
「いや、違う」
スコールがあっさりと首を振る
「そう………」
ってことは、自分達二人の分かな?
今日は部屋でのんびり過ごすつもりみたいね
スコールが歩いていった先には書斎とスコールの部屋がある
私も、荷物を置いてのんびりするつもりで階段を上った

「う………ん?」
暗闇の中にぼんやりとした灯り
「おーい、エル?」
扉をノックする音
名前を呼ぶ声
勢いよく身体を起こすと、そばに置いてある時計をつかみ取る
大幅に進んだ時間に慌ててドアへと手を掛ける
「おっとっ」
勢いよく開けた扉に、おじさんが慌てて脇へとどいた
「ごめんなさい、私寝てたみたい」
「いや、寝てたんならそのまま寝てても良かったんだけどな」
いつも通りのんびりとした口調
そうは言っても、夕飯の支度も何もしてなかったのに
「とりあえず夕飯が出来たから声だけ掛けたんだけどな」
足早に歩き出した私の後ろで扉の閉まる音がする
「………え?」
「わざわざ起こしちまったんなら後にすれば良かったな」
立ち止まった私をおじさんが追い越していく
「夕食って………」
私は何もしてないから、作ったのはおじさんかスコールよね?
「起きたばっかりだと、食欲も無いかも知れないけどな」
ゆっくりと歩く歩調に私は慌てて後を追う
「まぁ、けっこう美味いからさ………」
少し得意そうな言葉に
そっか、作ったのはスコールか
なんとなく、気が付いた

そういえばそう、だよねぇ
煎れてもらった食後のお茶を口にして、こっそりとため息を吐く
スコールが作ったっていう料理は充分美味しくて作り慣れていた
それはある意味当然の事
私がここに来てからは、いろいろなことが在ったせいで二人とも忙しくて
あまり、家にいる時間も無くて
当然の様に私が家事をしていたけれど
それまでの長い時間、ここには二人だけで住んでいた
「当然、だよねぇ」
カップに口を付けながら、こっそりと口の中で呟く
本当なら、おじさん位の立場の人なら、誰かを雇うんだろうけど
誰かが作らないと食事は出来ない
二人の内の誰かが―――お互いが、食事を作るのは当たり前の事
スコールが問いかけるような視線を向ける
「悔しいくらいに美味しかったって言ったの」
ため息混じりの私の言葉に、スコールが楽しげに笑った
 
 

 End