見当たらない記憶



 
久しぶりに何の用事も無い休日
ようやく重なった休日はきっと誰かが意図したものだろう
解っているが、誰も何も言わない
不正に手に入れた訳ではない正規の休みだ
どうせ、休みなんて物は誰かが何かの方法で決めるもの
そこにどんな意思が働いたところで、実害がないなら問題無い
そんな一致した意見を元に、“たまたま偶然”休日が重なろうと気にせずに過ごしている
とは言っても
子供───スコール───が幼い頃ならともかく、今では一緒に何かをする、なんていう事は無くなっている
ラグナに用事が無かったとしても
子供達は子供達で用事が入っている
少し寂しい気もするが、子供達には子供達の世界がある
たまにつきあってくれればそれで良い
今日も用事がある、と今日も子供達は出かけ、一人だけののんびりした休日
ラグナはのんびりと起きだし、だらりとソファーへと寝転んだ

特に何をするでも無く過ごしていた室内に、ドアの開く音が響く
寝転んだ姿勢のまま見上げた先に、スコールの姿が見える
「おう、おかえり」
「ただいま」
口少なに返事を返すと、難しい顔をして向かいのソファーへと座る
今日は遅くなるって言ってなかったか?
「………どうした?」
口に出しかけた言葉を飲み込み、何かあったらしいスコールへと問いかける
「父さんは、昔の事ってどれぐらい覚えている?」
うん?
予想も付かなかった言葉に戸惑いながら、言われた意味を反芻する
「………昔ってのはどれくらい前だ?」
年を取っていると“昔”の範囲が大きすぎんだよな
「子供の頃………5、6歳まで、か?」
5、6歳、ね
その時期ってのは………
少し暗くなりかけた気持ちを強引に振り払う
「あーー、そこまで昔だと記憶にないなぁ」
スコールが望んで居る答えが何かはわからないが、それくらい昔の事では、何か思い出すきっかけでもない限り、覚えている事は無い
「そう」
ラグナの答えを聞いたスコールが安堵した顔を見せる
なんかあったのか?
そう聞きたい言葉を
「それがどうかしたのか?」
さりげなく置き換える
「いや………」
別に何でも無い、そう続けようとしたらしい言葉を止める
「別に、昔の事を覚えていないのは変じゃないよな?」
不安気な表情は、変では無いという言葉を望んだもの
「そりゃ、大抵の奴はあんま覚えてないと思うぜ」
望んだ答えを返す
ってよりは、事実だろうな、これは
過去の事をしっかりと記憶している奴なんてのはそう居ない
覚えているって奴の大半は、ただ延々と記憶していた訳じゃ無く、過去の事を話す相手が居た奴だ
スコールが、5、6歳頃の事をほとんど覚えていないのはある意味当然だ
その当時の事を知る者が居なかった
スコールが語る話はエルオーネに関する事だけだった
「って、スコールはその位の年の頃の事はいろいろと覚えているんじゃないか?」
ずっと、エルオーネの事を忘れずにいただろ?
ラグナの言葉に、スコールが驚いた様に目を瞬かせる
「そういえば………」
驚いた様に目を見開いたスコールの、口からこぼれる小さなささやきに耳を傾ける
「なんだか知らねぇけど、納得したか?」
ラグナの言葉に、スコールは少し考えてから頷いた

「………ろくでも無いな」
スコールの気配が自室へと戻った事を確認して、ラグナは息を吐きソファーへと倒れ込む
スコールのつぶやきから推測すれば、自分達の事をあまり覚えていない事を悪し様に言われでもしたってところだろう
「覚えていて楽しい思い出って訳でもないだろう」
それに彼等も過去の事は覚えていなかったはずだ
「何か利用するつもりだったんだろうな」
彼等の中では。あの時期一緒に過ごした子供達は何か特別なつながりがあるらしい
だから、古い“友人”であるはずの彼等は何かの期待をしたんだろう
「昔の友人だからといって、今も“友人”だとは限らないんだけどな」
そもそも、友人だったのかも怪しいのか?
再会した───実質的には初対面だったが───頃のスコールの様子を思い出してラグナは深いため息を吐いた
 
 

 End