暗闇の星


 
月は沈んで、今は夜の闇
空には一面の星
エルオーネは、1人空を見上げていた
静かな夜に小さく物音がした
「……おねえちゃん……」
近づいてくる気配
エルオーネは、黙ったまま、空を見上げている
「おねえちゃん?」
掛けられた声にも振り向かない
「スコール、星綺麗だよ……」
そっと、小さい手が手にふれる
ぎゅっと、力を入れて握り返す
スコールも、隣で同じように空を見上げている
……温かい………
「寒くない?」
スコールは、黙って首を振る
2人で黙ったまま、星を見ている
「おねえちゃんは、寒くない?」
「スコールが一緒だから、寒くないよ」
安心したように、笑う
………私はどうだった?
こんな子供の頃、まだ幸せだった、あの時…………
守ってくれる人がいて、大好きな人達がいて……
わがままも言って、それでもたぶん許されてた
「………少し、散歩に行こうか?」
スコールは、嬉しそうに笑った

「どうしたの?」
花畑の入り口で、スコールが立ち止まっている
「……入っても、いいの?」
「いいよ?」
どうして?
スコールの手を引いて、中へと連れてくる
「おねえちゃんの大切な場所だから、入っちゃダメって………」
「おねえちゃんが、誘ってるのに?」
私が誘わなくても、スコールなら、いいのに………
つないだ手が暖かい
ここにあるのは、レインの花だから………
スコールは、ここに入る権利があるのに………
そう言いたいのに、言えない
言ってしまったら、“特別”になるから、スコールは、特別なのに、特別な事はしてはいけない“特別”の扱いができない
こんなの、どうすればいいんだろう……
兄弟が増えたのは、楽しいのに、でも…………
スコールを抱き寄せるようにして、エルオーネは座る
夜の闇が深くなっていく
こんな時間に外に出て来る人はいない
レインは、どんな風に思ってたの?
ずっと黙ったままでいる私に、スコールもずっと黙ったままでいる
なにも邪魔も入らない時間
「………怖く、ない?」
夜に、人の声も聞こえないのに
「おねえちゃんが一緒だから、怖くないよ」
『ラグナおじちゃんが一緒だもん……』
スコールと同じくらいの時に私が言った言葉
「そっか……」
『……それは、責任重大だな………』
明るい笑い声
同じなのに………
同じ言葉なのに………悲しい………
あの時みたいに笑えない……
「おねえちゃん?」
「……なんでもない………」
心配そうな顔
スコールには、解るの?
レインが悲しい時解ったみたいに、スコールには解るの?
「夜だから……夜は寂しい、よね?」
人の声も聞こえないし……
囁くような声でそっと呟く
これは、言い訳かな?
………たぶん……きっと言い訳じゃない……
「おねえちゃん……僕がいるから…………」
小さな腕に抱きしめられる
だから、寂しくないよね?
小さな、本当に小さな声
「うん、スコールがいるもの、ね……」
ねぇ、悲しいよ………
嬉しいのに、スコールの言葉は嬉しいのに、とっても悲しい
ねぇ、レインもこんな風に悲しかった?
こんな風に、嬉しかった?
こんな風に………
………本当は、本当なら………
ぎゅっと抱きしめ返す
波の音が聞こえる
聞こえてくるのは、波の音だけ、何もない孤独の島……
こんな寂しい場所で、人のいない場所で………
スコールは、他の人を知らない、村も、町も………なにも、知らない
ごめんね………
もっと、子供だった頃は、こんな事考えたりしなかった
ずっと、一つの事に執着して、考えて………
心配そうなスコールと目があった
私がしっかりしないとならないのに、心配かけて、ごめんね
「夜っていろいろ考えちゃうんだよね」
なんでもないみたいに笑って見せる
うまく笑えてる?
心配かけたりしないように、ちゃんと笑えてる?
「……おねえちゃん………」
「夜ってね、いろいろ余計なことも考えるんだって、後になってみると、どうでもいいって思える事を考えるんだって……」
スコールの声を消すように、私は話し続ける
……それでも、話を続けるには限界があって………
「…………あのね……夜は怖いんだって、そう思っていいんだって」
怖くないって言ったスコールが悲しい
怖くないって言わなければならない、それが、悲しい
「不安になって、少し怖く感じて…………それでいいの」
昔、遠い昔に言われた言葉
あの時、本当はなんていったんだろう?
「だから……………」
強がらなくてもいいって言葉は、言えない
たぶん、言ったらいけないから………
解る?何が言いたいのか、解ってしまう?
急いで大人にならなくていいの、頼りないかもしれないけど、力不足かもしれないけど、私が守ってあげる
もう一度強く抱きしめる
きっと、今、泣きそうな顔をしてる
泣いたりしたら、いけないのに、スコールの前で泣いたりしたら……
そっと、力を抜く
「……僕、強くなるから」
おねえちゃんが泣かなくても良いように
「ありがとう……」
しっかりしないと、スコールを守れる位強くならないと
強くなろう、レインみたいに
「強くなって守ってね、スコールなら、きっと強くなれるから……」
心配をかけたりしないように、大切な人を………
「うんっ」
スコールは嬉しそうに笑う
なんの不安も抱かないで過ごすことが出来るように、ちゃんと、強くなろう……
 

今にも落ちて来るような星
手を伸ばせばふれる事ができる様な
懸命に手を伸ばして………
伸ばした手は、届かないけれど

 

 
END