「おやすみ、スコール」 外から戻って、スコールをベッドに寝かしつける 「おやすみなさい、おねえちゃん」 ベッドの中で寝るスコールを見ている 眠りにつくまで、静かに見ている そっと、髪を撫でて………… 「………どうしようか………」 寝静まった家の中に囁いた言葉は、大きく響いた エルオーネは、誰も目覚めたりしないか、辺りを窺う 誰も気づいた気配はない よかった……… 悪い事はしていないのに、誰も起きてこない事にほっとする 暗闇の中、エルオーネは、静かに窓際へ移動する 空には、まだ星が輝いている ねぇ、私は、どうしたらいいのかな? 小さな音を立てて、窓が開く 人目に付かないように生活するのが、良い訳ないのに 綺麗に輝く星 ……私がいるから、ここにいないとならない 誰にも気づかれないような場所に…… 空を見上げていても、欲しい声は届かない スコールを無理に連れてきたのは、私 スコールを育ててくれる人はいたのに、そうしたら、今頃ラグナおじちゃんと……… 会いたい人に会えない 幸せなんて……… スコールに聞いたら、今は幸せだっていう、知らないから、今以外の生活を知らないから…… スコールはどう思うだろう、何て言うだろう もっと、大きくなったら、今の私位の年になったときには、どう思うだろう 他の…………あの時みたいな生活を知ったら 優しい家族との生活を……… 波の音が遠く聞こえる 海の音、ずっと昔に聞いた音もこんな音だった? ……あの時は、波の音が優しかった 今は……… ………わかってる、このままじゃいけない事は………… 厳しく叱る声みたいな音 暗い室内を見渡す、みんな眠っている 穏やかな眠りの中 知っているの? 隣室へ続く扉を見つめる その先の2人の大人、エルオーネの大好きな2人とは違う2人…… みんな迎えに来る誰かを待っている事 気づいてるよね? 私達の気持ちには、気づいているよね? 大人ももう眠りに付いた時間 エルオーネの邪魔をする人はいない 『早く迎えに来るといいね』 2人だけの時にスコールはそう言って笑う 『絶対に来るよ』 そう答えていた でも、この前まで言えた言葉が今は言えない 大きくなって、いろいろ解るようになってしまったから 窓の外を見て、きつく目を閉じる 『悪い人に見つからないように』 昔言われた言葉、あの時は何も考えなかった、そうなんだとしか思わなかった ねぇ、悪い人に見つからないように隠れているんだよ? 悪い人に………誰にも見つからないように……… 見つからないように、人がこない場所に隠れているだけ…… 迎えに来てくれる人がいるのに…… ねぇ、どうやって、迎えに来るの? 見つからないように隠れている私達をどうやって迎えに来るの? 『そんな奴、やっつけてやるからな!』 こんな時、思い出す言葉 窓から冷たい風が吹き込んでくる わかってる、みんながみんな、そう言える程強くないこと でも………… 「……こんな時、どうするの?」 答えはない 私は、まだ一緒にいたい 答えて欲しい人は、どこにもいない どうすればいいかなんて、本当は解ってる、でも……… レイン、あなたならどうする? 「……怒るかな?」 閉じた目に思い浮かぶのは2人 それとも、悲しむ? 私がやっている事を知ったら、どう思う?何て言う? でも……… 「もう少しだけ、このままで………」 あなた達の様に強くなれるまで…… ちゃんと笑える様になるまで……… 風の音が聞こえる 海を渡る風の音 きっと、本当の事を知ったら恨まれると思う スコール達に、大好きな弟達に恨まれるのは、つらいけど、でも今はまだ、もう少しだけ一緒にいたい まだ、見ていたいの…… 寂しいから、悲しいから、まだ一緒にいたいの……… 「ごめんね……もう少し、もう少しだけ………」 許してね……… お願い、もう少しだけ側にいることを………… 恨んでもかまわないから、側にいることだけは、それだけは………… 冷たい風が吹く
END
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