運命


 
窓の外に立ちこめる暗雲
東の空が時折不気味な光を見せる
不気味な光景
……雷でも鳴れば完璧なのにな
意味もない言葉が頭を過ぎる
眼下に広がる街の様子は、息を殺しているかの様に静かだ
殺す迄はいかなくても、息を潜め嵐が過ぎ去るのを人々は待っている
―――魔女の驚異
この国の住人はどこの誰よりもその恐怖を知っている
―――――――――覚えている
「……大統領」
小さな声が背後から掛けられる
決断の時
解ってる、決断しなけりゃならないってことも
―――――――――そして、決断する内容も
でもな………
ラグナは静かに目を閉じる
「……ああ…………」
まだ決意が固まらないんだ
半端な返事を責める声も、先を促す声も上がらない
重く長い沈黙
なぁ、どうすれば良いんだろうな?
答えは決まっているはずなのに、俺は脳裏に浮かぶ面影に問いかける
魔女は倒さなければならない
エルオーネはいち早く救い出してやりたい
だけど………
なぁ、どうすれば良い?
オダインが示した作戦
そして、エルオーネの報告
告げられた2つの言葉が頭の中で渦巻いている
探し続けた息子を危険にさらしたくはない………
何度も何度も繰り返す問いかけ
だけど、面影は何も語らない
今回ばかりは、レインも助けてはくれない
ひでぇ話だよな
目を開きラグナは、不気味な空を見つめる
「………なぁ、わりぃんだけどさ………」

ラグナの求めに応じ人々が立ち去った室内に残ったのは2人
祈るかの様に、顔を伏せたラグナの脇で、キロスは無言で窓を見つめ、ウォードは静かに酒をあおる
2人とも何も言わない
ただ、ただ、静かに時が過ぎるのを待つ
「…………………ったらな」
小さな呟き
俺が魔女を倒せる程強かったなら
…………SeeDを頼らなくても良かったなら
言葉にならない後悔
そして、運命を呪う言葉が漏れる
聞こえたはずの言葉に2人は反応を示さない
ラグナが言葉を発したと思ったことが間違いであったかの様に、ただ、静かにそこに存在している
ゆっくりとラグナが顔を上げる
「………SeeDを呼んでくれ」
自嘲的な笑みが浮かぶ
「オダインの作戦を実行する」
宣言した声がかすれた
グラスが音を立ててテーブルの上に置かれ、ウォードが立ち上がる
キロスが静かに息を吐き出した
「……………承知した……」
キロスの声が重く響いた

1つ上手く行かないと全てが上手く行かない
…………なんて言ったのは誰だっただろうな?
ラグナは、全ての始まりとなった魔女の住処を見つめる
もしかしたら、あのときエルを連れてすぐさま逃げ出せばよかったのかもしんねーな
……そうすれば………
『馬鹿な事を言ってるわね……』
幻が、現れる
「………レイン」
なぁ、俺がやったことはやっぱり間違ってたのかな?
だから、神様ってやつが罰を与えようとしてるのかな?
『本当に……馬鹿なんだから』
悲しく微笑むと、幻は静かにラグナを抱きしめた
 

END