安らぎ


 
例えば、道を歩いている時
私をかばうように、あなたは危険な場所を歩く
『そうしなければ』
といった気負いの無い、自然な行動
例えば、早朝家の扉を開く時
あなたは私の斜め後ろに居る
背後のあなたは緊張感を漂わせて、家の外を伺っている
例えば、夜の散歩
決してできることの無かった夜の外出
あなたは、いつも手に銃を持ち
夜風に当たる私達を見守っている

長い間、気を張って生きていた私にもたらされたのは安らぎ
長い間、自分自身で身を守るしか無かった私にもたらされたのは
守ってもらえるという安堵感
『危険だ』
と、繰り返すだけの人々とは違う
何も言わなくても、危険を排除しようとしてくれる
いつもはうるさい程口数が多いのに
変なところで細かな注文だって多いのに
何一つ文句も言わず、さりげなく守っていてくれる
張りつめていた神経が少しずつ解れていく
緊張感に満ちていた生活が、柔らかなモノへと変わっていく
少しずつもたらされた変化
あなたがもたらした変化

よく笑う様になった小さな少女と
明るい声を上げて、あなたが遊んでいる
「外に遊びに行ってくるね!」
そう宣言した彼女の手は、しっかりとあなたを握りしめている
「気をつけて行くのよ」
私の返事にうれしそうに出かける姿
あなたが現れるまで無かった事
危険を知っているあの子は、外に出ようとしなかった
危険を知っている私も、外に出そうとしなかった
当たり前と思いこんでいた日常
押し殺していることさえ、気づく事の無かった望み

あなたと出会って、私は少しわがままになった
あなたと出会って、私は安らぎを手に入れた

守ってくれる腕のおかげで
できる事が広がったから
守ってくれるその存在が
信頼に値するモノだったから

たぶん私は、幸せの中に居る
 
 
 

END