あなたがいる幸福


 
高く晴れた空を渡る風が冷たい
黄昏色に染まる空が、草原を金色に輝かせている
草木の上を群れを為し飛んでいく赤とんぼ
季節は秋へと移り変わっている

過ごしやすく涼しくなった気温と収穫されたばかりの食べ物
人々は、今年の収穫に自慢をし、もしくは愚痴をこぼし
冬への蓄えを始める前に、息抜きをする
さまざまな出来事が一段落するこの時期は、一年の中で一番お店が混み合う
村に一件のレインの店は、賑わいを見せていた

夜、時間店内に残っていた客を追い出し、ようやく店を閉める
「おつかれさま」
夜道を帰る村人の背を見送り、ようやく一息ついた所で、背後から突然かけられる声
振り返った先には、当然だけれど、2階から降りてきたらしいラグナの姿
「そうね、今日はさすがに疲れたかも」
突然かけられた声に、内心の驚きを隠しながら、私はラグナへと返事を返す
「忙しそうだったもんな」
店内に降りてきたラグナは、静かに掃除を始める
昼間は騒々しい位に音を立てて動き回っているのに
さっきも、物音一つ足音一つ立てなかった
こんな時、この人が“戦士”だということを思い知らされる感じがする
「この時期は、毎年こんなモノなのよ」
洗い物を始める私の側を、彼がゆったりと動いている
「今の時期が一番のんびりできるから」
「でも、あいつら、あのままだと、店の飲み物ぜーんぶ飲みつくしちまいそうだぜ」
床の上に置かれた空き瓶を回収しながら、ラグナがしみじみと呟く
「あら、それで売上があがるなら良いじゃない?それに、そうなったら、買い出しに行ってくれるでしょう?」
身体を動かす度に空気へと伝わる振動が
灯された明かりを大きく揺らす
「俺が!?」
勢いよく身体を起こしたラグナが、テーブルの脚に足をぶつけた
振動で、大きく揺れるテーブル
「気をつけてよ」
振動で落ちそうになったグラスを両手で受け止めている
「あーおどろいた」
たいして驚いていなさそうなラグナの口調
手が慎重にグラスを置く
「それで、さっきの話なんだけどよ」
揺れの収まったテーブルの中央に置かれたグラス
テーブルから慎重に離れながら、ラグナが話を続ける
「こういうの、詳しくないぜ?」
ほんの些細な仕草、特別意識している訳ではない行動
「知ってるわよ、でも、紙に書いてあるモノを買ってくる位の事はできるでしょう?」
気負う事無く交わすことの出来る会話
「そりゃ、そーだな」
モノがふれあう軽い音、床の上を歩く足音
「そしたら、エルも一緒に連れてっていいか?」
良い事を思いついたとでも言うように、明るい表情
「エルも?」
答えなんて決まっているけれど、私は考える振りをする
「そーね」
期待に満ちた眼がじっと見つめている
こんな所は、子供みたいだわ
「危険な目に遭わせないって約束できるなら、良いわよ」
「おう!もちろんだぜ」
約束なんてしなくても、ラグナならきっとエルオーネを守ってくれる
「なら、次の時は二人で買い物に行って貰うわ」
「エル、喜ぶだろうな」
「そうね……」
自分の事の様に嬉しそうなラグナの顔
私は、洗い終えたグラスを手に取り、そっと棚へと戻す
楽しそうなラグナの声
次々と立てられる買い物の計画
私は相づちをうちながら、優しい時間を感じている

――――この時間がずっと続けば良いのに――――
 

END