花候


 
色とりどりの花が咲いて、遠い日を思い出す

ゆっくりと覚醒した意識が拾うのは水音
軽やかで細やかな音
窓から差し込む太陽の日差しは快晴
窓の下に見えるのは、レインとエルオーネの姿
ゆっくりと開く窓がたてる軋んだ音に、エルオーネが窓を仰ぎ見る
「おはようっ」
子供特有の高い声が辺りに響く
「おう、今日も早いなっ」
風にながれる髪を押さえながら、レインが同じように見上げる
「おはようラグナ、あなたは今日も遅いわね」
笑いを吹くんだ声にラグナは満面の笑みを浮かべる
「今日はちっと早いだろっ」
水滴が光を反射してきらきらと光を放つ中、レインはホンノ少し肩を竦めて
「どうかしらね?」
エルオーネを伴って、家の中へと消えていった
夏が近づいた近頃毎日繰り返される日課
朝早く、家の周囲を彩る花々に水をやるのがレインの日課
夏の強い日差しが差し込む前に、水やりをするのが植物には良いと聞いたが、そう言った事はあまり良く解らない
ただ、目覚めた時の不思議な感覚
微かな水音と、楽しげな声
―――そして、2人の姿
目が覚めて耳にする音、目にするモノ
何故かほっとして、安心する
こういうのは安らぎっていうんだろうか?
ずっと知らなかった感覚
「いいな、こういうの」
柔らかで、暖かくて………
なんて言って良いか解らないけれど、身体に染み込んで何かが解けていくようなそんな感覚
彼女たちの姿が消えたのを確認して、ラグナは窓辺を離れる
痛めた身体をかばいながら、慎重に着替えを進める手が不意に止まる
風に乗って漂ってくる香ばしい臭い
食欲をそその香りに、誘われるように腹が鳴る
きっともうすぐエルがやってくる
それまでに支度しねぇとなっ
心が弾み、どこかそわそわと落ち着かないままに手が動く
扉が閉まる軽やかな音
近づいてくる足音
「おじさんっ」
弾む声と共に現れる姿に、どうしてか穏やかで優しい気持ちを抱く
誘われるまま、共に家を出て………
同じ事の繰り返し
変わらない毎日
―――ずっとこんな生活がつつけば良いな
「先に行かないでって言ってるでしょ」
扉の前で、レインが少し怒った顔をして立っている
「大丈夫だよね」
信頼に満ちた目が見上げた
「でもレインの言うとおりだぞ」
変わらない会話を交わしながら扉を潜る際、目に鮮やかな花々が焼き付いた

鮮やかな花の姿はレインに重なる
穏やかな時間
優しい記憶
ずっと続けば良いと願った、遠い日々

END