英雄とモンスター(2 SideS)


 
世界を騒がした魔女を倒して数ヶ月
ガーデンは、世界各国への対応と、後始末に負われていた
世界各国が真実を知らされ動揺する中、ガーデンはいつもと変わることのない日常を、一部を除き取り戻していた
英雄達は、各国への対応に駆り出され、忙しい毎日を続けていた
それも一段落ついたこの時期、SeeDへの依頼が舞い込んできた

―――――エスタ―――――
任務に向かう途中、スコールは気が重かった
任務が言い渡される事は嫌じゃない
むしろ、やたらと騒がしく、興味深そうな人々の視線から逃れられるという点では歓迎したい所だ
だが…………
言い渡された任務が気に入らない
最近では、自由にガーデンが所有する乗り物を使用できる様になっていたスコールだったが、今はわざわざ鉄道を乗り継ぎ移動していた
言い渡された任務先は“エスタ”
くそっ……
スコールは、エスタに着いたとたん、きっと諸手をあげて出迎えるだろう男を思い浮かべた
それだけでも気が重いというのに、告げられた任務は、わざわざSeeDの手を必要とするような物ではない
スコールは、自分がエスタに向かっている事に、さまざまな人間の作為を感じずにはいられなかった
聞いた話によれば(聞きたくもなかったが)、エスタ市街にはモンスターが出なくなってずいぶん経つという
列車の中は、エスタに向かう人々で賑やかだ
“エスタ観光マップ”なる物を広げて賑やかに相談をしているのは、安全に旅行できる様になったらしいという噂を聞きつけた観光客の一団だろう
エスタに向かう人々は、こんなにも平和だ
それを今更………
この観光客の多さが、エスタの安全性を物語っている
スコールは、黙って窓の外から海を見つめていた
本来ならば、列車など使わずに、空から直接エスタの街へといくべきなのだろう
静かに、列車が駅へと入っていく
巨大な街が遠くに見える
駅の外には、武装した兵士の姿
まだ、街以外の大地には、モンスターがはびこっているという
依頼が、エスタ国内のモンスターの殲滅だったなら……
それならば、ガーデン全体で任務に当たりもしただろう
兵士達が、人々を最近作られたらしい、ターミナルへと先導する
駅から街までの間には、直通のバスが通っているらしい
スコールは、観光客に紛れるようにして、バスへと乗り込んだ
荒涼とした大地が続く
『…………エスタ市街地のモンスターの調査と、殲滅の依頼です』
シドの声がよみがえる
生き残りの調査………
エスタの軍事力は、他国にひけをとらない―――それどころか、高い技術力は他のどの国にも真似の出来ないものだ
SeeDの派遣はただじゃない
実際の所は解らないが、SeeDの派遣には、多額の金がかかったはずだ
……………ノーグがいなくなったことで、料金の改定があったな……
………覚えてないな……
スコールには、SeeDの派遣料がどれくらいのするのか、まったく覚えていなかった
………関係ないしな……
実際、依頼する人にとっては重要な事だろうが、スコール達SeeDの側からすれば、その金額が直接自分たちに振り込まれる訳では無いため、どれだけ高額であろうと、全く関係のない事だった
だが料金はともかくとして、わざわざSeeDに依頼する理由があるだろうか?
思惑が手に取るように解る様で、スコールは、頭を抱えた
なんであんな男が大統領でいられるんだ……
きっと、SeeDを、俺を雇う事を提案したのはラグナだろう
それを認めるエスタの役人達は何を考えているんだ?
ラグナの個人的な意見を承認するエスタの役人にも不審感を抱く
政治が個人の意見で動くようになるならば、その国は………
スコールが知るラグナの様子が思い浮かぶ
……………そういう奴でもないな……
独裁政権を築きたがるような性格でもない、実際本気で独裁政権を築く気があるのならば、今頃はとうに体制ができあがっているだろう……
スコールが見るともなしに、風景を見ている内にバスは街へと到着した
直接バスは、街の中へと入っていく
街の入り口には兵士の姿が見える
以前に見たときの様にピリピリと張りつめている感じがしない
街に訪れた平穏は、本物だ
スコールは、物珍しげにブースターへと集まる人々を後目に歩き出した
……気が重い
穏やかな街の雰囲気を感じ取る
きっと、急がなければならない仕事ではない
スコールは、街の様子から、緊急にしなければならない事でもないと判断し
ゆっくりと、大統領官邸に向かって歩き出した

“キャーーーー”
道を散歩でもするかの様にゆっくりと歩くスコールの耳に、どこからか、悲鳴が聞こえてた
なんだ?
緊迫したその声が気になりスコールは、辺りを見回す
続いて複数の悲鳴が聞こえる
悲鳴は、危険を知らせる声だ
………気になる……
スコールは、悲鳴が聞こえたとおぼしき方向へ歩みを進める
遠くから、必死の形相で人々が走ってくる
「おい、何があった?」
走り去ろうとした男を無理矢理捕まえる
「モンスターが………」
応える声は、掠れ、目は恐怖におびえている
モンスター!?
ゆるんだスコールの手を無理矢理引き剥がし男が走り去っていく
数人の人々が一様に悲鳴を上げ駆け抜ける
遠くから聞こえる緊迫した声
まさか、本当に今頃になって出たのか?
人々の緊迫した声には偽りはない
「家に戻っていろ」
スコールは、側で不安そうに道の先を見ていた通行人に一声掛けると、武器を携え声の聞こえた方向、ショッピングモールへと走り出した

 
 
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