英雄と遺産
(おまけ)


 
大統領官邸のとある一室では、先ほどから張りつめた沈黙が続いていた
ラグナは、先ほどから突き刺すように無言の圧力を掛けるスコールと視線を合わせないようにしていた
………沈黙がつらい………
ラグナは、唯一の家具であるソファーへ座り天井を見上げている
スコールは、圧力を掛け、ラグナが話し出すのを待っている
ここで、なんか言ったらスコールの思うつぼだ
居心地の悪い空気の中、他の人達の様に逃げ出す訳にもいかないラグナは、ただひたすらじっとしている
ラグナは、不気味な静寂の中不毛な思考を巡らしていた
静まりかえった室内に、食器の触れる小さな音がした
思わず移動しそうになった視線をラグナは、あわてて引き戻す
危ない、危ない……
状況がわかんないってのに、下手な事口走る訳にいかないもんな……
先に口を開くのは得策じゃない
「………それで…………」
スコールの声が低く響く
ラグナは、返事をせずに天井を見上げている
いらだったように、テーブルを指で弾く音がする
態度悪いよな……
ラグナも自分自身でそう思うが、どうしてもスコールと視線を合わせられない
「いったいどういうことだ?」
いや、だから、それじゃわかんないって……
ラグナは、大きなため息をつく
「何が、だ?」
無意識なんだろうけど、どうも調子が狂うんだよな……
……調子ってより、話のタイミングか……
ラグナは、天井から視線をはずし、そばにある壁を見つめた
口を開き言葉にしない分、スコールは視線に言葉を乗せる
強い心構えがないと、どうしてもぺらぺらと余計な事を話してしまう
再び沈黙が訪れる
がまん比べみたいなもんだな……
ラグナはもう一度細い息を吐いた
「………全部だ、あの場所はいったい何だったんだ!?それに、どういうつもりだった!?」
テーブルに両手を打ち付け、畳み掛けるように質問が飛び出す
……だから、極端だって……
ガラスのテーブルにひびが入っているのが見えた
………その内この部屋に物が無くなりそうだよな……
「いったい何だ、なんて聞かれてもな、セントラの遺跡ってしか答えようがないだろうが……」
視線が合う
だから睨むなって………
「発見もされて無かった遺跡だぞ、いくらなんでも、アレが何かなんて質問に答えられる奴はいねーよ」
……だから、疑いを込めた目で見るなよ……
「……遺跡が廃墟になる前から生きてる人間でもないとわかんねーんだぞ?」
見ただけで、何百年も放置されていたとわかる代物だった
「……機械は動いていた」
「そうだな、まったく、セントラの技術ってのは……」
ラグナは、大げさとも言える程のため息をついた
実際、人が居なくなった後も何百年も動いているというのは、感心を通り越し、あきれかえっている
スコールが無言で腰を下ろした
「だから、破壊した?」
うん?
突き刺すような真剣な眼と出会う
「だから、二度と使えないように徹底的に破壊したのか?」
「まぁな」
……………二度と使えないって訳でもないんだけどな……
内心の思いをラグナは上手に隠しスコールと向き合う
「新たに発見したセントラの技術、これほど危険な物はない、違うか?」
ラグナの問いかけにスコールは、無言で同意する
話が早くて助かるな
本当に危険なのは、セントラで見つかった物ではなく、セントラの遺産が見つかったという事実
発見し、それを入手すれば、猜疑心が生まれる
「エスタもガーデンも、今信頼を築いてる時期だからな……」
失われたセントラの技術を入手したという噂が広まれば、他の国に疑惑が生まれる
それが、全く役に立ちそうもない代物だったとしても……
冷え切ったコーヒーを口に運ぶ
「それで、徹底破壊か」
「まーな、潜水艇もその辺から盗んだものだっていうんなら問題なかったんだけどな」
“セントラ”という単語が絡んできたからこそ面倒な事になった
再び沈黙が訪れる
「だからSeeDの要請……」
微かなスコールの言葉にラグナは小さく頷いた
必要なのは、セントラの遺跡を知られる事なく破壊する事
その為には、兵士を使う訳にはいかない
ならば、兵士を連れて行かなくも十分だと思い込ませる事が必要になる
大した相手じゃないからという理由で、ラグナが1人で乗り込むのは不可能だ
それなら、逆に、SeeDの協力を求める事で、名義上の海賊が手強い相手だと、思いこませてしまえば、少数精鋭という言い訳が立つ
「考えただろ?」
考えこんでいる、スコールの顔をラグナは覗き込んだ
「施設が生きてるってのは知ってたのか?」
疑惑のまなざしが向けられる
「もしかしたら、程度だって」
だから、何百年前の遺跡がどれくらい持つかなんて知るわけないだろ?
「ただ、潜水艇は間違い無く動いてたからな」
結局本物は全く見ていないが、聞いた話によれば、動かすのに全く問題は無かったらしい
冷えたコーヒーを飲み干す音が響いた
「それで………、なんで、あんたとサイファーなんだ?」
……なんでって、配置の事か?
「そりゃ、適材適所って…………」
………そこで怒るか?
ラグナは、ソファーから腰を僅かに浮かせる
「だから、あるかどうかも分からない施設を探すのには、俺が適任だろ?」
……不本意だけど、迷ったっていえるしな……
「サイファーの方は?」
「…………総合的判断」
いや、理由はいろいろあるんだけどな…………
怒りの籠もった視線
解ってても嫌がるとか、本当はそれだけじゃないけどな……
「……あのさ………これっていちをSeeD試験だろ?」
あの場合、破壊を躊躇わない事、何故破壊しなければならないか理解出来る事、ラグナが命令すると言う事を受け入れられる人間が必要だった
その点では、スコールは一番の適任とも言えるかもしれない
だが、それ以上に重要なのは、もし、破壊した者が海賊達ではないと解っても、その行為に疑問を抱かれない者
真実を隠し通して、ラグナは、気楽に言い放つ
「試験を受ける人間に活躍の場を与えなかったら、意味がないじゃないか?」
ラグナがソファーの背を乗り越えた直後、ガラスが砕ける音がした
「そう言うものじゃないだろう!」
スコールは、ラグナを怒鳴りつけると同時に、ラグナが先ほどまで座っていたソファーを蹴りつけていた

数時間後、ラグナは官邸の片隅でサイファーとのんびり話をしていた
そばを通りかかった人間によれば、どうやら魔法の便利さについてラグナが
『傷がすぐに消えるのは有り難い』
と語っていたらしい
噂を聞いたスコールが難しい顔をして、ラグナの居場所を聞いて行ったが、その後何が起きたかは、誰も知らない