英雄と泥棒
(おまけ)
大統領室で、ラグナは報告を受けていた
その間もつきさすような視線を感じる
……やりにくい……
威圧するような視線に、人々がスコールを伺い見ている
先ほど淡々と状況報告したスコールの姿が思い浮かぶ
事件に関わったからには、確かにその全容を知る権利が有る
スコールがここに居る事に文句を言える人間はいない
次第に、人数が少しずつ減っていく
やがて、人の気配がすっかり希薄になった
スコールがラグナの目の前に立つ
「……ちょっと移動するか?」
あんまり移動したくも無いけどな……
報告書を手にラグナは立ち上がった
辺りには、あからさまにほっとした空気が流れる
見ない振りをする僅かに残った秘書の間を、ラグナはスコールを連れて歩き去った
「それで………?」
殺風景ないつもの部屋
鉄製に変わったテーブルを挟んで、ラグナはスコールと向かい合った
冷たい視線が正面から突き刺さる
その状態でそれでと言われても、な
手に持ったままの報告書にラグナは視線を落とした
まだ報告書と言っても、各自のその時の行動、事実くらいしか書かれてはいない
ラグナは、手に持っていた報告書をスコールに強引に手渡した
「なんのつもりだ?」
渡された報告書を見、ラグナを見る
「わかりやすいんじゃないかと……」
ゆっくりとスコールが報告書をテーブルの上に置いた
「何がわかりやすいんだ?」
「現場の状況」
条件反射で即答し、ラグナは今更ながら後悔する
「…………」
重い沈黙
やっぱり、拙かったか?
ゆっくりと心を落ち着けようとする様にスコールが深呼吸をした
「…部外者じゃないのか?」
部外者?スコールが、か?
「今回に関しては充分関係者だ」
だから、さっき誰も何の文句も言わなかったんだろ?
何かを考える様にスコールが押し黙る
「なら……」
スコールが何を言い出すのか、ラグナはどきどきしながら続きを待った
「経過も知る権利はあるな?」
経過って………そうなるのか?
思い悩むラグナの前で、スコールは状況報告書へと手を伸ばす
……まぁ、機密事項に触れない限りは大丈夫か……
整理されていない報告書を読み進めていたスコールの顔が曇る
問題でも見つかったか?
「システムの回復はわざと遅らせた?」
「それは、相手の油断を誘うつもりで……」
それがどうかしたのか?
嫌な予感と共に、ラグナはそっと体重を移動させる
「連絡はどうした?」
連絡?
連絡ならきちんと取って…………
ふと、一つの事実に思い当たる
「忘れていたのか?」
静かな声が不気味に響く
いつのまにか、報告書は揃えられ邪魔にならない位置に片づけられている
ラグナと直接会話を交わした場所以外で個別に取り残された技術者の存在
その存在を綺麗に忘れ去っていた
「忘れていたんだな」
スコールの声が不気味に響いた
数時間後、報告書を手に機嫌良く歩くラグナの姿と、疲れたようなスコールの姿が目撃された
何が起きたのか、真相を本人達に聞こうとする者がいない中、陥没した床と、憶測という名の噂が残った
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