英雄と墓標
(おまけ)
エスタ大統領官邸特別応接室
室内に配置された物の極端に少ない、いつもと同じ部屋
いつもと同じソファーでスコールはいつもと違う相手を前にしている
ガルバディアで別れたラグナを尋ねて来たが、用事が入っている為すぐに来ることは出来ないと伝えに来た相手
―――人に良く似た、人ではない相手
実際の所ラグナを相手にするよりは、彼女を相手にした方が聞きたいことの幾らかは聞くことが出来る
そう思いスコールは彼女を引き留めたが………
「セントラが滅んだ理由、ですか?」
今はリエッタと名乗る彼女が人と変わらぬ仕草で首を傾げる
「残念ながら私も私が属する施設もセントラが滅びる前に眠りについています」
何が起きたのかは解らないと首を振る
………言っている事は理にかなっている
だが、あの場所に残されていたモンスターの痕跡
そして、彼女が属していた場所での研究の内容―――モンスターの無力化―――
今も昔もモンスターが脅威である事は変わりはない、と思う
けれどこれは偶然だろうか?
なんらかの関連があっても可笑しくはない筈だ
ラグナ相手に口にすれば、単なる偶然、気のせいだと言われて終わるだろう
根拠の無いただの想像
偶然だと言われればソレまでの事
「モンスターが原因だとは考えられないか?」
ラグナが真実を知っているのかどうかはこの際どうでも良い
「モンスター………」
今はただ知りたいだけだ
「確かに彼の方々は月からのモンスターをとても警戒していました」
言葉を紡ぎながらリエッタはコーヒーを淹れる
「月から訪れるモンスターの悪夢に幾度と無く襲われて」
スコールの前へと1つ、そして誰もいない向かい側の席へと1つ
「近い将来大規模な襲撃を予測していましたから、無力化の研究もその件を警戒しての事です」
彼女が扉の方へと視線を向ける
「予測されていたモンスターの襲撃が原因であったとしても可笑しくはないでしょう」
予測されていたなら対策が取られていて可笑しくない
それにあの場所
崩壊したセントラの施設の光景が思い浮かぶ
様々な場所へと残されていたモンスターの痕跡、だがあの地の全てをモンスターが攻略したとは思うことは出来ない
もしあの全てがモンスターの仕業だというなら、人並み以上の知力を備えた存在が居ることとなる
スコールが質問を重ねようとした瞬間、背後の扉が開く
「待たせて悪いな」
騒々しい物音と同時にラグナが入室してくる
「それでは私はコレで」
入れ替わりに笑顔を浮かべリエッタが退出していく
「それで、今日はやっぱこないだの事か?」
どこか緊張した面持ちでラグナが向かい側へと座った
途切れ途切れに交わされる言葉
会話と会話の間に生じる長い沈黙
いつも通りの光景
………いつもと違う気配
不可思議な感覚は、俺じゃなくスコールのせいだな
一言一言話すたびに何かを考えている
様々な状況をつかもうと慎重になっている
まぁ、当たり前かもしれねぇな
話している事は数少ない
スコールが知っている事はほとんど無い
手がかりと成りうる物も、出来る限り隠した
けどな、その全ては知らなくても良いことで、知る必要のないことだ
アノ場所の様に終わってしまったことにとらわれる必要はない
もう考えるなとスコールへ言いたくても、ラグナから切り出すことは出来ない 全部どうしようもない
昔のことだ
過去は変わらない
それは良く解っているだろ?
下手な事を言えば、そこから追及の手を伸ばそうとするだろう
沈黙の時間が続く
………ああ、適当な事を言ってうやむやにするって手もあるか、いつもみたいに………
時計の音だけが室内に響く
「あんたの両親ってどんな人だったんだ?」
沈黙の果てに投げかけられた質問にラグナは僅かに目を見張る
両親………両親ね
「んーーそうだなぁ………スコールに対してこういうのはものすごく悪いっていうか情けないんだが………」
両親の言葉に思い浮かぶ面影は、無い
だいぶ薄れた記憶は顔も思い出せない
「あんまり昔の事で良く覚えていないんだよな」
顔以外の事もそうだ、確かに在ったはずの日常の出来事なんて今となっては思い出さない
「その後の記憶があまりに強烈でさ………」
覚えてるのは幾つかの出来事と雰囲気と………
いつかどこかで見た戦いの記憶
スコールはじっと話の続きを要求してでもいるのか、黙ったまま口を開かない
「そうだな………父親には憧れてたかもな」
誰よりも強く、誰よりも………
「そーいや、スコールはセントラの地が何故どこの国にも属していないか知っているか?」
広大な場所が、エスタにもガルバディアにも属さずに残されている理由
エスタからすれば過去への敬意、そして強い後悔
ガルバディアは………恐れだろうか
「………なんの話だ?」
突然変わった話にスコールが不機嫌になる
解りやすさに笑みを浮かべでラグナは言葉を続ける
「知らなかったら調べてみると良いぜ、そう昔の事じゃないセントラとモンスターの話だ」
セントラの生き残りとエスタ軍
そして、どこからともなく現れたモンスターの群れ
モンスターの言葉にスコールが小さな反応を見せる
内容を知ってスコールが何を考えるかは解らない
「ラグナは知っているんだな?」
「そりゃーな、これでも大統領だし」
どんな結論に達するのかも解らない
だが、きっと―――
スコールがエスタを出てから1時間余り
「セントラの事を話す気は無いのですね」
ラグナはリエッタと共に居た
「誰も知らない事は話しようもないしな」
「………そう、ですね」
誰にも見られることのない場所、誰にも聞かれる事の無い場所
「遠い未来、必要な時が来たら知ってることを話してくれれば良いさ」
閉ざされた空間でラグナはそう言って寂しげに笑った
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