英雄とセントラの謎
(おまけ)
派遣した兵士からの報告が上がってきたとラグナから連絡があったのはつい先日の事
報告してきたからには聞く権利があるんだろうと推測してエスタを訪れたのはつい先程の事
いつもの殺風景な部屋に通されて遅れて来たラグナに報告書を手渡された
「………ラグナ」
視線を落とした先には“極秘”という文字
「関係者以外閲覧禁止、スコールは関係者だろ?」
あの後の状況が気にならない訳じゃない
破壊した施設が全面的に稼働を停止しているのか細かい所の確認はしていない
ラグナが言った言葉は納得しかねるが今回だけはそう言うことにしておく
スコールは声に出しかけた言葉を呑みこむと、報告書へと視線を落とした
スコールが紙をめくる音が聞こえる
報告書に書かれていた事は、施設が全て停止しているという事
ある程度の状態を記録し、資料を集めた後に一つ一つの物質を細かく破壊した事が記録されている
完璧とは言い難い情報収集も、徹底的な破壊も命じたのはラグナだ
軍が持ち帰った資料に物質は一切存在しない
セントラへと害をもたらし、今の世の中でも害にしかなり得ないもの
貴重な資料となりえる物かもしれないが幸いな事にエスタには、事細かい分析する事よりも、一切を無かったものとする事に反対をした者は誰一人としていなかった
モンスターへ対する嫌悪
滅多に表面化する訳じゃないから大抵は知らずにいるが、特定のモンスターへ対するエスタの人々の嫌悪の感情は結構強い
―――月の涙
月から訪れるモンスター
この地には元々存在しなかったモンスターへと向けられる感情
どのモンスターが何なのか
そんな情報を知らない筈の人々でさえ、その性質は顕著だ
―――代々伝えられているだけかもしれねぇけどな
どちらにしろ残されたのは完膚無きまでに破壊された代物
あの場所にはもう何も残っては居ない
醜悪な施設が存在していた事さえも伺い知る事は出来ないはずだ
報告書に記載されているのは徹底的な破壊の様子
施設事態を詳しく調べた形跡はどこにも無い
調べる事が出来なかったのか、調べるつもりがなかったのか
………調べるつもりが無かった
問いただす迄も無く目を通せば明確に解る事
あの場所は残して置いて良い場所じゃない
あの場所に関する資料も、残ってしまえば馬鹿な考えを起こす人間が出てくる事は解る
それならば、何も残さない方が得策
そういう考えなのかもしれない
だが、気になっているのは、あの存在
スコールが見る事の無かった幾つかの部屋の中身
そして、幾度となくセントラを破壊したというモンスターの存在とセントラの出身だと言ったラグナの言葉
モンスターに滅ばされたという集落の跡やモンスターの存在と言った類の事
ラグナには話さなかった事
モンスターの事は、知らなければ深く調べる事は出来ない
存在を教えなかったのはスコールだ、なのに調べるべき事を調べていないと不満を感じている
スコールはゆっくりと息を吐き出して報告書を閉じる
「何も残っていないんだな」
確認なのか感想なのか、呟いた言葉にラグナが無言で頷く
互いに何も語ろうとしない状況に沈黙が生まれる
「………他にも、あると思うか?」
迷った末のスコールの言葉に
「今、徹底的に確認してる」
ラグナの声が珍しく冷たく響いた
どこか腑に落ちない様子でスコールが帰って行った
報告書に記載されていたのは徹底した破壊の様子
破壊以前の光景を纏めた記述はほとんど無い
―――当然だよな
報告書を作り上げた彼等が見たモノは破壊された工場と、何も無い幾つかの部屋
スコールが倒したモンスターの姿も、部屋の中に残されていた怪しげな物質も何も目にしてはいない
エスタ軍が目にしたのは、出来損ないのモンスターの残骸
「――――――」
静かな問いかけの声にラグナはゆっくりと視線を巡らす
「解析が終わりました」
淡々と告げる”彼女”の声に軽く頷き、足を運ぶ
“彼女”が派遣したエスタ軍が到着するよりも早く、あの場所へ向かい全てを始末した
明るく発光する文字が映し出される、あの場所に対する詳細な報告書
幾つかの物質の解析結果と詳細な説明
他の誰にも見せられる事無く消えていった
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