英雄とパンドラ
(立ち入り禁止 SideL)


 
立ち入り禁止区域
エスタにはこういった場所が幾つか存在する
当然その中の幾つかは、“関係者以外立ち入り禁止”っていう特定の施設だったりするんだが、そういうのとは別に、ある日突然“立ち入り禁止”になる場所ってヤツも存在している
そのほとんどが、なーんもない場所
まぁ、なんでそうなるかっていうと………
「ラグナくん、どうやら報告通りの様だ」
キロスに渡された双眼鏡を覗き込む
「うわっ」
どこから湧き出たのか、モンスターの姿がごちゃごちゃと見える
「こりゃー、立派に“立ち入り禁止”だな」
ラグナの言葉を聞きながら、キロスが関係各所へ連絡をいれる
「軍の派遣は決定だな、その前にちっと、この辺に誰かいないか見てくる」
以前なら、こんな僻地のこんな縁起の悪い代物を見学にわざわざ足を運ぶ物好きはいなかったが、古代セントラの技術だの、もう危険は無くなっただのっていう話が広まって、怖いモノ見たさでこんなものまで見学に来る奴が居る
モンスターが異常発生しているっていう話を聞きさえすれば間違いなくとって返すとは思うが、ソレを知らずに近づく奴がいたら確実に命取りだ
「あと、この辺に来てるヤツが居ないか、いちを確認、な」
さすがにあそこを見学する為には、申告と許可が必要だ
ついでに言えば、中に入るには、必ずエスタ兵士の同行が義務づけられている
当たり前の措置、だけどな、なんかの弾みで、アレが生き返って作動したなんて事になったら洒落にならない
「確認が取れ次第私も行く」
キロスへと片手を上げ、ラグナはモンスターの居ない箇所から、その場所を目指す。
―――ルナティックパンドラ
あの戦いの折に壊れ、今は機能していない残骸
墜落した現場に放置され、結局そのまま資料として強行的に残された
月の涙を呼び寄せる装置
仕組みは解析したところで解っていない
………そもそも解析しようなんて考えの奴はエスタにはいないけどな
エスタの人間のほとんどはルナティクパンドラへと興味を示さない
“月の涙”をもたらすもの
“月”は不吉なものの象徴で、“月の涙”は不幸を呼ぶもの
月の涙を発生させる装置など、忌むべき技術以外の何物でもない
本当なら、跡形もなく破壊してしまうつもりだった
あの未来の魔女との戦いが終わった直後、混乱の中で破壊するべきだった、なんて意見は未だに聞こえる
今となっては後の祭りだけどな
穴が開き、ぼろぼろと崩れ落ちた外壁が見える
ルナティックパンドラを挟んだ向こう側に、モンスターの姿が見える
………うん?
モンスターの動きが少しおかしい
微かに人の声が聞こえた
走り出したラグナの背後から、何かを言うキロスの声が聞こえる
見物客がいるってんだろ?
こちら側に近い幾つかのモンスターが、動き出す
―――声と音が聞こえた
戦いの音
戦いの際に上げる声
「………………」
急ぎ走っていた足がゆるむ
「………あいつら、何してんだ?」
首を傾げたラグナの隣に、キロスが運転する軍用車が滑り込んできた
 
 
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