英雄とドール
(おまけ)


 
遠く昔、ドール帝国が存在した土地
今は、ガルバディアという国が存在する場所
かつてのSeeDが残した資料
森の奥深くに存在するという施設
スコールが廃棄される筈のその資料に目を留めたのは只の偶然
処分しようと運び上げた資料が手から滑り落ち
たまたまその資料がスコールの目へ飛び込んで来ただけのこと
………いや、それだけならばただ拾い上げるだけで、目を留めることもしなかっただろう
そのまま手に取り処分される筈のソレは
開いた箇所に付随していた1枚の写真が、スコールの手を止めさせた
暗く、決して鮮明とは言い難い、少しぼやけた写真
建物の壁らしきそこに刻まれた幾つもの意匠
その中に刻まれた見覚えある模様
1つはドールの国旗に似た紋章
1つは、“エスタ”のソレ
その周囲を囲む複雑な模様は、セントラの遺跡の一つに刻まれたモノと同じもの
処分する筈のその資料を、スコールは密かに自室へと運び込んだ
一人になり始めから目を通したその内容には、目を引く様な情報は何もない
ただ、昔その辺りのモンスターの討伐を命じられたこと
SeeDの誰かが偶然“穴”の中でこの施設を見つけたということ
嘗てのガーデンが下した結論はドールの秘密の施設だろうということ
結果、通達されたことは“近づかないこと”“見なかった振りをすること”
それも仕方の無いこともかも知れない
“今”とは違って、この資料が作成された当時は、情報の無い時期だ
ここに刻まれた紋章の一つがエスタのモノだとは知らなかっただろうし、セントラの遺跡に刻まれたモノと同じ文様が刻まれているとは解る筈が無い
―――この場所のことを、一度調べてみるべきだろうか?
不思議と、スコールはこの事態は報告しようとは思わなかった

そして、依頼が舞い込む

ドールからの依頼
依頼自体はさほど珍しいモノでも無い護衛の任務
ただ、依頼主の名が署名された文章を目にし、スコールはほんの一瞬驚きに動きを止めた
署名の脇に描かれた一つの図案
おそらく紋章である筈のソレは、つい最近見たものと同じに見えた
写真の中にある飾り
アレが紋章であるとするならば、対となる位置にある不鮮明な代物も紋章なんだろう
不鮮明でも、アレは同じものには見えなかった
―――やはり、調べてみるべきかも知れない
何故そう思ったのかは定かじゃない
だが、その思いは日ごとに大きくなり
「スコールは何か用事がある?」
その問いかけに無意識のうちに頷いていた

導かれる様に足を運ぶ

森の奥深く
草木の中に埋もれる様にしてその場所は在った
洞窟の奥、行き止まりに遺跡の入り口だろう扉が現れる
写真では解らない細やかな模様
刻み込まれた幾つかの紋章
スコールは確認するように一つ一つ丁寧に紋様に目を向ける
そして、視線が止まる
写真では不鮮明な一つの紋様
遙かな時間をおいてなお、くっきりと刻まれた形
この紋章は、見た覚えがある
「ここは、セントラの遺跡なんだな?」
確かめる様に、スコールの手が“扉”へと触れる
刻まれていたのは、エスタで幾度か目にしたことのある紋
良く確認しようと、近づいた拍子に、触れたままの手に力が掛かる
突然、手をついた場所から、淡い光が浮かび上がる
生きているのか!?
スコールが驚き、手を離すのと同時に“声”が聞こえた

エスタへと帰国するラグナロクから、ラグナは一人降りる
『ちょっと寄って行きたいんだ』
ラグナの言葉に、彼等は何も言わずに、ラグナが一人残ることは承諾した
ラグナロクが飛び去るのは確認して、ラグナは、彼等が思っていただろう方向とは別の場所へと歩き出した

「やっぱり来たんだな」
森の奥深く
誰かがこの場所へと足を踏み入れた様子は見て取れた
人の気配は感じていた
気配に、もしかしたらという思いは抱いていた
「………スコール」
帰り際教えられた場所の近くに在ったのはスコールの姿
“彼等”がスコールにこの場所のことを教えるとは思えない
「なんで、ここにいるんだ?」
当然とも言える疑問に、スコールは答えない
「あんたは、ドールの奴等に言われたのか?」
問いかけながら、スコールは“穴”の中へと足を踏み入れる
微かな首の動きはついてこいと言っているんだろう
………逃げ出したい気分だけどな
この場所に何があるのかラグナは知らない
ただ解るのは、何者かの“遺言”が眠っているのだということだけだ
むき出しの土に乾いた空気
足を踏み込んだ穴の中であり得ない取り合わせを感じる
奥の方からにじみ出るのは柔らかな灯り
「………動いているんだな」
何気ないラグナの呟きに、スコールの歩調が微かに乱れる
眠っていた遺跡を起動させたのはスコールってことか
どんな方法で動かしたのか正確なことは解らない
だが、もしも起動に必要な情報が………………
緩くつづいたカーブの果てに巨大な扉が広がった

「どうするつもりだ」
森を抜けた先でスコールが問いかける
巨大な扉は開かなかった
開かなくて当然だ
「どうするかなぁ………」
ラグナはスコールの視線から逃れる様に空を見上げる
扉に刻まれていた2つの窪み
おそらくは“鍵”をはめ込む為の鍵穴
その1つは、ドールで渡された“剣”
もう一つは………
「開けるんだろう?」
質問では無い問いかけ
スコールが、ラグナの視線を追うかの様に一歩足を踏み込んで来る
「そうだな、開けないとならないだろうな」
扉を開けるには“鍵”が足りない
ラグナは、一瞬目を伏せ、スコールへと視線を向ける
動き出した機械は、何れ誰かが発見してしまうだろう
そうなる前に―――
「とりあえず、カギが必要だろうからな」
明るい声で告げたラグナに、スコールが目を細めた

鍵は、在る
開ける為に必要な鍵は全部揃っている
ただ、その場所を開く為に必要な“鍵”であることを知らなかっただけ
託された複数の鍵
託された複数の施設、設備
決断が付かない
あの先に託されたモノが何であるのか、解らない
「せめて、手がかりがつかめれば良いんだけどな」
刻み込まれた幾つかの紋様
見覚えのある筈の紋章
じっくりと確認することの叶わなかった扉を思い出しながら、ラグナはぼんやりと呟いた