英雄と伝言
(しかけ SideL)


 
足音が響く
ラグナが歩く数歩先に自動で灯りがつく
決して短くは無い通路は、回転しながら下に傾斜している
一体どこまで続いているんだろうな?
歩みを進めるラグナを照らすように、一瞬光が通過する
先ほどから時折、ラグナを確認する様に光が走るが、何かのアクションがある訳ではない
ただ静かな道
長い歳月のせいで生じた床の隙間に何かの機械が見える
ここを通っているのが不審者だったら何かが起きたのかもしれないな
警告する様な赤い色が遠くで光り、消える
「歓迎されてるって解釈で間違いないんだろうな」
行き先を先導する様に灯る明かり
稼働している機械の数々には、ラグナを攻撃する意志は感じられない
情報は本当だってことなんだろうな
この場所の持ち主
“セントラ”の生き残り
セントラ滅亡後、セントラ大陸へ移住、その後の足取りは不明
ここに来る前に知らされたデータ
なんらかの悪意と共に伝言が残されていたとは思いたくは無い
歓迎されるだけの理由があるって思いたい所だよな
「やっと終点か」
灯りに照らされ浮かび上がる扉
歩いてきた通路はそこで終わっている
扉の左側に、小さな台が置かれている
「………………」
台の上に刻まれた掌の形
目の前の扉には、鍵穴は勿論取っ手も何も付いてはいない
「置けってことだよな」
手を置く事に寄って開く扉
この台の役割は、手の形や重みを判別する為のものではもちろんなく―――
たたきつけるように台の上に左手を乗せる
掌を光が舐める様に読み取っていく
機械が立てる音が止む
大丈夫だと思っているはずなのに、心臓が激しく脈打つ
僅か二呼吸分の静寂の後、音を立てて扉が開く
思わず零れる苦笑
親切な事に、扉の内側の部屋にも自動的に灯りがつく
扉まで足を進め、入り口に手を掛け、中を覗き込む
覗き込んだ部屋の中に降り積もった埃とよどんだ空気
そして、部屋の中央にこれ見よがしに置かれたテーブル
壁に埋め込まれた機械とスクリーン
隠された部屋のくせに、残された物はあまりにも少ない
「伝言、か」
残されているはずのメッセージ
「随分重要な内容なんだな」
動き出す様子の無い機械に、ラグナは室内へと足を踏み入れる
室内の中央に備えられたテーブルに自然と目が行く
模型?
ラグナの手が、模型の上に積もった埃を払う
「セントラ、か?」
現れたのは中央に巨大な建物が配置された都市
古い記憶は曖昧で、セントラがどんな姿をしていたのか思い出すことが出来ない
ラグナの手が、中央の建物をなぞる
位置と大きさからして、ここが王宮か
エスタとは違った都市の形
「やっぱり、エスタとは違うよな」
エスタはわざわざセントラとは違った建物、材質を使って都市を建設した
ドールは、セントラから避難した者達が作った国だ、自分達が知る形、材質を使い都市を建設したんだろう
エスタの建造物に何も感じなかったのは正しかったんだろうな
エスタを目にしたときよりも、むしろガルバディア―――デリングシティを目にしたときの方が懐かしい感じがした
模型に触れていた手を離し機材の側へと近づく
突如、スクリーンへ光が照射される
「お待ちしておりました」
スクリーンへと若い男性の映像が映し出される
「私は、ここの管理者です」
ラグナへと向けられる“目”を感じる
「主より、あなた宛に伝言を預かっています」
感情の無い、いや感情を押し殺した声が告げる
「俺に、伝言?」
「はい、間違いなくあなた宛の伝言です」
スクリーン越しの視線がまっすぐにラグナへと向けられる
「――――――様」
音が零れ落ちる、懐かしい名前を聞いた 
 
 
 
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