Famille tres cherle



 
「よし、じゃあ、そういう事で、進めておいてくれっ!」
封印した魔女「アデル」をどうするか、その方向も決まったその時、話の愛の間中、落ち着き無くそわそわしていたラグナがそういい、席を立った
……進めておく??
エスタの人々が、訳がわからない、とでもいうようにラグナを見つめる
「俺は……、俺は、レインを迎えに行く!」
突然の宣言に、納得するキロスとウォードを伴って、エスタの人々の制止を聞こうともせずに、ラグナは強引に旅立った

久しぶりに目にする懐かしいウィンヒルの風景
ラグナはその風景を目に留める事もなく、忘れる事のない道を家路へと急ぐ、最愛の人と、大事な子供の住む懐かしい我が家へと、一緒に戻った友人を置き去りにして、一人走っていく
静かな村のパブが見える。元々人口の少ない村は、戦乱の為に人口も減り、ラグナがいた頃には、パブを利用する人もめったにいなかった
「レイン、エル!」
扉を開けるのももどかしく、中に飛び込み、大切な二人の名を呼ぶ
記憶にあるよりも、多くの人々が店内でくつろいでいる。突然入ってきた、ラグナを驚いた様に見つめ、何かを確認するように、伺うように、レインの方を見る
「………ラグナ…………」
レインは、ラグナが覚えてるままの姿で静かにたたずんでいた
「………た、ただいま……」
おどろいた様に見つめるレインにラグナが照れながら言うと
「おかえりなさい」
穏やかな微笑みを浮かべた

キロスと、ウォードがラグナの元にたどりつくと、店の客は、半ば強引に追い出されている最中だった
当然、二人は、『また、ラグナの仕業だろう』と考えたのだが、実際中に入って見れば客を追い出しているのはエルオーネで、客達は、気を悪くした様子もなく、仕方のない事だ、とでも言うように肩をすくめ、素直に帰っていく
ラグナは?と見れば、店内の奥の方で、レインを前にしたまま、直立して固まっている
「?何をやっているんだ?」
妙な緊張感を漂わせているラグナを不審に思い、キロスは近くにいたエルオーネに声をかける
「しぃっ」
エルオーネは、慌てたようにキロスを黙らせる
「今、大事な時なんだから、ラグナおじちゃんに話かけちゃだめ」
小声で二人に囁くと、腕を引っ張り、場所を移動させる
!!
目に飛び込んで来たのは、レインの腕に抱かれた赤ん坊
『あれは、ラグナの……?』
ウォードが声のない言葉で語りかける
「ふたりの赤ちゃんなんだ……」
そう言ってにっこりとエルオーネは笑ったが、二人にはラグナが父親になる、と言うことに強烈な衝撃が走った

「で、その、な……そういうことなんで………だから……」
戻ってみれば、予想もしなかった、第3の人物に迎えられ、説明するラグナの歯切れはよりいっそう悪かった
腕に抱かせられたこの赤ん坊は、どういう訳かラグナをじっと見つめたまま、視線を逸らさない
思わず目を合わせてしまったラグナは、うまく視線を離す事もできず、歯切れ悪く話をしながら、赤ん坊とずっと、見つめ合っている
「それで、どうしたの?」
なかなか結論を話せないラグナをレインはせかしたりせずに辛抱強く待っていた
「………だから、その………」
あまりの居心地の悪さに、腕に抱いた赤ん坊から、視線を無理に引き剥がし
「一緒に、エスタに行こう!!」
その勢いで、緊張に跳ね上がった奇妙な声でやっと、言いたかった一言を言う
「やっぱり、俺もエスタの事は気にかかるし、もし、アデルがよみがえったりしたら、また、エルを狙ってくるかもしれないんだけど……その……やりかけた事は、途中で投げちゃいけないと、思うんだっ!」
最大の難関を越えてしまえば後は同じだとでも言うのか、後はいつもの調子で、勢いに任せて話し、ここまで言うと、急に自身をなくしたように、頼りない視線でレインの顔を伺い見る
「その……ダメ、かな?」
微かにレインがため息をつく
そのため息を聞きつけ、慌てて、ラグナは、話を追加する
「ちゃんと、復活なんか出来ないように、見張りもするし、エルには絶対に近づけないところに封印するからっ!」
そして、ラグナは、アデルを封印したま宇宙に持っていく事、そこで二重の封印を施すこと、絶えず人が常駐してもしもの時の為に備える事、もちろん自分も、ときどき自分で確認に行く事をそれこそ必死で言い募る
「……だから、一緒にエスタで暮らそう!」

力を込込めて、話すラグナの腕の中で、赤ん坊は静かにしている
「……大物だな……」
ふと、その様子を見ていた、キロスが呟くと、まったくだ、と言うように、大きくウォードが頷く
あれだけ騒がしい人間の腕に抱かれたら、普通赤ん坊は泣くものだろう……
二人の視線の先で、問題の赤ん坊は、何がおもしろいのか、興味津々といった様子で、ラグナを見つめている
「俺達は面白いと思うが……」
果たして、生まれて間もない赤ん坊はどう思っているのだろう?
二人は、ラグナとは、全く関係の無い事が気になってしかたがなかった……

「男が一度決めた事は最後までやりとげる!」
「はいっ、もちろん責任を持って、最後までやりとげますっ」
突然の言葉に、ラグナは思わず条件反射で応え、おそるおそるレインを伺う
「だから、エスタにいってあげるわ」
レインは腕を伸ばし、ラグナの腕から赤ん坊を取り返す
「アデルをどうにかしようって決めたんでしょ?あなたは、約束通りエルを取り戻したわ。それなら、アデルをどうにかするっていう約束も責任持って実行しないとね」
「いいのか?その……ここは、レインの家もあるし………」
レインの理解ある言葉に、ラグナは急に弱気になるとぼそぼそと、呟くように確認する
「そうね、確かにここには思い出もあるし、家もあるかもしれない、でも、その為だけに、あなたを一人で行かせたりしたら、この子に恨まれる事になるわ」
レインの腕の中から尚もラグナを見上げてるいる子供に優しく微笑みかける
「………ほんとうに、ほんとーに、一緒に行ってくれるんだな!?」
「行くわよ、エスタはあなたが平和にして来たんでしょ?それに、私だって、腕に多少の自身はあるのよ、どうにかなるわ」
エスタに行くこと位、なんでも無い事だ、と、エスタに行く事の不安の内容をすりかえて応えて見せる
「よっしゃーっ!」
喜びの叫び声をあげると、何事か、と顔を覗かせたエルオーネを抱き上げる
「エルっ、また、みんなで一緒に暮らせるぞっ!」
喜びのままに、エルオーネをぐるぐると振り回す、ラグナの手から、事前に赤ん坊を取り返していたレインはなんとも言えない表情で、子供を見つめる
「よし、そうと、決まればっ!」
エルオーネを床におろすと、ラグナは、荷物を広げ
「さっさと、準備して、早いとこ出かけようぜ!」
はりきって、旅立ちの準備を始めた

数日後、一行はラグナにせかされる形で、エスタに向かい旅立った

 
END