雨の後に


 
空を見上げる
静かに雨が降る
薄暗い空
やがて…………
雲間から光が差す
澄んだ空気
細やかな雨……
キラキラと光に反射して輝いている
光が空に広がっていく
キラキラと、光が降り注ぐ
紙吹雪を撒いたかの様に、光が降り注ぐ
そして………
虹が現れる

「雨があがったのね……」
雨音が聞こえなくなった事に気がつき、レインは顔を上げた
雲の切れ間から光が降り注いでいる
「晴れるのかしら?」
洗い物をしていた手を止める
まだ空は、雲に覆われている
「……綺麗ね……」
天から、一筋の光
以前も、偶然目にした光景
普段気にもとめず、見る事もできない、この光景を、レインに知らせたのはラグナだった
二人で空を見上げて
『なんとも言えない気分になるよな……』
そっと、息を潜める様にしてラグナが言った言葉
「……そうね、不思議な気分になるわ………」
神聖な、とまで言うのは少し抵抗があるけれど
そう、あの時のラグナの様に声を潜め、静かに見入っていたいような、そんな光景
雲が集まり、厚く、光を隠す様に雲が覆い被さってくる
「……まだ降るのかしらね……」
遮られた光が、僅かににじみ出ている
空が、雲が僅かに明るく染まっている
……こんな光景も素敵じゃない?
これから、晴れる訳では無いけれど、また、同じように雨が降るのだろうけれど、ほんの僅かな瞬間に見える光景
今度二人で見る事時に、教える事ができる
いろんな事を教えられたけれど、帰って来たら、ラグナが知らない事をいろいろ教えよう
「一番目に教えるのは、あなたの事だけど……」
レインの視線の先には、すやすやと眠る赤ん坊
「きっと、驚くわよ……そして……」
そして………何て言うだろう?
そっと、優しく抱き上げる
「あなたのお父さんは、どこで、道草してるのかしらね?」
エルオーネは、ただ1人で帰ってきた、ラグナは、まだ帰れないという
きっと、まだエスタにいるのだろう
変に人が良いあの人は、頼まれた事を放り出す事はしない……
“決着がつくまで、もう少し待っていてくれ”
渡された手紙
“そしたら、すぐに帰るから”
丁寧に書かれた文字
エルオーネが無事に帰ってきて、ラグナの話を聞いた
きっと大丈夫
雨音が聞こえてくる
「あら?また降ってきたのかしら?」
そんなに強くはならないと思ったのに
窓の外では、思った以上に強く降りそそぐ雨
「……困ったわね……」
雨は嫌いではない、でも………
「レッイーン、洗濯物どうする!?」
二階から、エルオーネの声が聞こえる
「ああっ、もぉっ……」
でも、大量の洗濯物が乾かない
「その辺に干して置いて頂戴っ!」
二階のエルオーネにそう答えたとたん、腕の中の子供の目が開く
「あ、あら?」
赤ん坊は、声を上げて泣き出した……

「今日も雨だね……」
退屈そうなエルオーネの声
「そうね……」
こう何日も雨が続くと、さすがに困ってしまう
乾かない洗濯物
「この時期の雨はなぁ……」
珍しく訪れた客の言葉
降り止まない雨、荒れた天候
「仕方無いわね、この時期は、いっつも荒れるもの……」
強い風が窓を鳴らす
風の音が聞こえる
そう、いつも通り、いつものように荒れているだけ
「今夜は荒れそうね……」
今までと変わらないはずの季節
………不安を覚える必要はないのに……
「そうだなぁ…………」
湯の沸く音と、雨の音、そして、風の音
訪れる沈黙
「……いやな天気だな……」
同意しかけたレインの耳に声が聞こえる
『……たまの嵐ってこう……わくわくするんだよな……』
子供の様な言葉
そして、本当に楽しそうに嵐を見ていた
「……そうね…………」
雨が激しくなる
飽きることなく見つめていた目
流れる水、叩き付けられる滴、うなりを上げる風の音
ふいに二階から子供の泣き声が聞こえた
「私、いってくる」
エルオーネが走り出していく
走り去るエルオーネの姿を見つめる
無言の時間が過ぎていく
「………じゃあ、この辺で…………」
嵐が来る前に、と、客が帰っていく
「ええ、気をつけて帰って」
レインは、客を見送ると、店を閉めた
「この天気じゃ、もう誰も来ないわね……」
重くのしかかる様な空
こんな天気の日は、心も重く沈んでしまう
……まだ、私には楽しめないわ………
二階から、エルオーネの呼ぶ声がする
「今、いくわ……」
レインは軽やかな音を立てて、階段を上っていった

久しぶりに晴れ渡った空
まだ、ほんの少し、雨が降っている
辺りを渡る風が水分を含んだ空気を運び去る
いつもよりも、透明感がました様に感じられる空気
レインは、空を見上げる
まぶしい程の光
「レイン!虹!!」
「え?」
慌てて、エルオーネの指さす方へ視線を転じる
空一杯に、くっきりと輝く虹
「虹の橋、かかったね!」
嬉しそうにエルオーネがはしゃいでいる
「そうね、綺麗に虹が架かったわね」
虹の両端が地平線と交わっている
……本当に橋がかかってるみたい……
「うん、これで……ラグナおじちゃん帰ってくるね」
え?
……ラグナが帰ってくる?
レインは、驚いて、エルオーネを見つめた
「……レイン、知らないの?」
「何を?」
得意そうなエルオーネの顔
「あんな風に虹が架かった時は、待ってる人が帰って来るって!」
待ってる人が、帰ってくる?
「……そんな事誰が言ったの?」
聞き返す声が震える
お願い、変な期待を抱かせないで………
「ないしょ、だよっ」
信じきった言葉
「エルオーネ!!」
レインは、信じる事ができないから、悲鳴の様な声を上げてしまう
そんなレインの気持ちには気づくはずもなく、エルオーネは笑顔で走り去ってしまう
空に架かった虹が薄れていく
「………本当なら、いいのに………」
背を向け、家の中に入るレインの背後の空が一瞬光を反射した

久しぶりの天気の日
こんな気分の良い日は、外に出るのに限る……
そういう事なのだろうか?
レインのパブは、久しぶりに人でにぎわっていた
賑やかな人の声
エルオーネが、人々の間を巡っている
レインの耳にエルオーネの言葉が切れ切れに聞こえてくる
……困ったわ………
子供らしい思いこみで信じて疑っていないエルオーネ
ちらちらと、視線を感じる
困って、側にいる子供へと視線を向ける
ねぇ?どうしよう?
村人の視線から逃れる様に、そっと、子供を抱き上げる
レインを見つめ返す瞳
返事は、戻らない……
扉が大きく開いて、村人が駆け込んで来る
慌てた様な姿、レインが声を掛ける前に、彼は、近くの人に連れ込まれる
エルオーネが側に走り寄っていく
レインは、その光景をぼんやりと見ていた
わき上がるざわめき……
……何かあったのかしら?
顔をあげ、扉の方へと、視線を向ける……
エルオーネが嬉しそうに、走り寄ってくる
そして………
「レイン、エル!」
聞き覚えのある声
扉が勢いよく開いた………

少しずつ虹が消えていく
ゆっくりと、空気にとけていく
空には、青空
さわやかに風が渡っていく
まぶしい程の太陽
暖かな日射しが、降り注ぐ
目を細めて、空を見上げる
空に、雲はない……
 
 

 
END