夕暮れ時に


 
水音を立てて、ほんのわずかの間、手が水の中を通り抜ける
掌が、くすぐられる感触
小さな魚が掌の上を泳いでいる
じっと、見つめていると、体が引き上げられ、岸辺から、離れた位置へと、連れて行かれる
掌で、魚が勢い良く飛沫を上げる
少しずつ指の間からこぼれた水が、土に浸み込んでいる
「連れて帰るか?」
魚を見ていた、目を離す
視線の先で、買ったばかりの買い物袋の中で何かを探している
??
不思議に思い見つめる先で、取り出されたのは飴の袋
「これって、中の飴も袋入りだったよな?」
そう言って、袋を開けて、中の飴を買い物袋の中に直接ぶちまける
空っぽの飴の袋を持って、川へと近づいて
「ちょっと待ってろ」
膝をついて、袋を、川の流れの中に浸した
「ほら、これに入れれば連れて帰れるだろ?」
差し出された袋の中には、川の水が入っている
大丈夫?
「大丈夫、穴も空いてないし、逃げ出す心配もないぞ?」
広げられた袋の中に、大急ぎで魚を放した
水の中で、魚は元気に泳ぎ出した
「さて、帰っか?」
魚の入った袋が渡される
それをしっかりと握り締め、また手をつなぐ
「早く帰らないと、怒られるからなぁ〜」
ゆっくりと歩き出す、日は先ほどよりもだいぶ落ちている
顔を見上げれば、そうだろう?と、同意を求められる
「……うん、あんまり遅くなると、心配して、怒るんだ……」
つないでいた手が離れて、くしゃくしゃにかき回すように頭を撫でられる
「よし、二人に心配掛けない内に帰るぞっ!」
もう一度手をつなぎ直して、少し急いで歩き出す

川の水音
魚がはねる音
傾むいた太陽
辺りを赤く染めるその光に
しばらく進んで、ラグナは、スコールを抱き上げて、慌てて走り出した
 

  

END