平穏な日


 
澄み渡った青空が広がる
ゆっくりと雲が流れていく
風もないそんな穏やかな日の出来事

ラグナは、本を読むのを止め、ふと顔を上げた
ん?
窓の外から、かすかに水音が聞こえる
雨でも降ってきたかな?
差し込む日射しは変わりなく明るい
ラグナは立ち上がり、窓辺へ近づき外を眺めた
眼下に広がる庭は、一面の花
庭に立ったレインがホースで盛大に水をまいている
「……雨かと思ったのにな……」
宙を流れる水が、キラキラ光を反射し輝く

花が咲き誇っている
色とりどりの花
「やっぱりちょっと元気が無いわね」
ここ、何日かまったく雨が降らない
「暑いものね……」
元気のない花を見て小さくため息をつく
「さあ、水撒きをしましょうっ」
訪れる涼やかな空気
放物線を描いて、レインの手から水が流れ出る
「雨が降れば良いいだけど……」

庭に踏み込んだとたん、水分を含んだ涼しげな空気に出迎えられた
放物線を描いて花々へと降り注ぐ水が、虹をつくり出している
「レイン?」
エルオーネは、反射する光をまぶしげに見つめる
「あら、お帰りなさい、今日は早かったのね?」
言葉と共にレインが振り返る
「きゃっ!!」
盛大な水しぶきが、寸前で避けたエルオーネの側に飛び散る
「もぉ、気をつけてよね」
振り向いたレインは、水の流れるホースを手に握っていた
「あら、ごめんね」
そう言いながら、エルオーネの後方へと水を撒く
「水撒きなら私がやろうか?」
「そう?じゃあ、お願いするわ」
レインからホースを受け取り持っていたバックを代わりに渡す
「それ持っていってくれる?」
飛沫が、左腕にかかる
冷たくて、気持ち良いな……
「わかったわ、ちょと元気がないみたいだから、しっかりと水をあげてね」
バックを持って、レインが家の中へ入っていく
「大丈夫、ちゃんとやっておくから」
背後から、生ぬるい風が吹く
「気持ち悪い風っ」

階段を降り、玄関へ向かったところで、ラグナはレインと出くわした
「あれ?もう終わったのか?」
問いかけながら、ラグナは耳を澄ます
外から微かに水音が聞こえる
「丁度エルが帰ってきてね」
ラグナの横をすり抜けるようにして、家の奥へと歩き出す
「じゃ、今水をやってるのは、エルか……」
「そうよ、代わって貰ったの、結構水撒きも重労働なのよね」
二階のエルオーネの部屋へレインが歩いていく
この家の庭大きいでしょ?
歌うようなレインの声が聞こえる
「確かに重労働かもな………」
一面に植えられた花々は、綺麗だけれど、なかなか雨の降らないこんな時には少しやっかいだ
だからと言って、自然に雨が降るのにはまだまだ時間がかかりそうだ
「ラグナ、手伝ってくれる?」
背後からレインの声
「ん?どうした?」
振り返った、ラグナに二階から階下をのぞき込むレインの姿が見えた
「ちょっと運んで貰いたい物があるの」
……運ぶものなんてあったか?
「何運ぶんだ?」
首を傾げながらも、ラグナは、レインの元へ向かった

「いいところに帰ってきた!」
急ぎ帰ってきたところに、突然脇から声を掛けられた
???
スコールは、エルオーネの姿を探し、辺りを見回す
「スコール、こっち」
エルオーネの声と共に、空から水が降りかかってきた
「うわっ!」
声を上げ、慌てて避けたが、多少の水を頭から被っている
「あっっ!ごめんねっ!」
慌てたようなエルオーネの声と同時に水が止む
スコールは、頭を振り顔を拭い、水を飛ばしてから改めて声がした方を見る
「何するんだ」
むっとしながら、スコールは、エルオーネの元へと向かう
「ちょっと手元が狂ったんだってば」
右手にホースを持ったまま、スコールが近づいた分だけ、エルオーネが遠ざかっていく
狂っただけ?
「それに、気持ちよかったでしょ?」
じりじりと後ずさっていく
「……気持ちよかった」
けど…………
「なら良いよね?」
引きつった笑みを浮かべて、確認するように首を傾げた

窓の外から悲鳴が聞こえた
「エル!?」
ラグナは、声を聞くと同時に、窓辺へと飛びついた
息を飲んでレインが駆け寄ってくる
「………なにやってんだ……」
窓の外の光景に、緊張した空気が緩む
「………え?」
花々の間を走り回る子供達の姿
悲鳴の様な歓声が上がっている
辺りに飛び散る水の飛沫
「……エルに何かあったんじゃないし、良かったんじゃないか?」
ずぶぬれの二人を見下ろし、呟いたラグナの言葉に反応し
窓を開け放ち、レインが呼びかける
「二人とも何やってるの!」
こちらを見上げ二人が同時にレインに訴え掛ける
「もぉ、いいから二人ともそこで待ってなさい!」
きっと着替えを取りに行くのだろう、急いで二人の部屋へと立ち去っていく
「気持ちよさそうだな」
不安げに見上げる二人へラグナが声を掛ける
「風邪ひかないうちに切り上げろよ」
再び、宙に水が舞う
子供達の歓声が上がる
「やっぱり暑いもんな……」

澄み渡った青空が続く
昼夜を問わず涼しくなるまでもう少し
そして、いやに成る程雨が降るまでも、もう少し……

 

 

 
END