なんでもない日常


 
後は何を買えば良かったかしら?
レインはカートを押しながら、メモを開く
………えーと…………
メモを見て、小さくため息をつく
必要な物を配達してくれるこの街では、大変な思いをして、買い物をする必要はないけれど……
たまに買い物に来てみると、この量にめまいがするわね……
買い物の大部分は、食材
大量に買われていく食材が、わずか2日分の量なんて、誰が信じるだろう?
……大家族ならともかく、家は4人家族なのにね……
「ま、仕方ないか……」
育ち盛りの子供がいるんだもの
もっとも、一番食べる人は、立派な大人だけれど
食事を嬉しそうに食べる顔
小さく口元に笑みが浮かぶ
気持ちよい程豪快に作った物は残さず全部食べる
それも、見ているだけで、美味しく感じられる表情
作る側としてみれば、嬉しそうに食べてくれる相手というのは、つくりがいがある
「これで全部ね?」
メモの中の文字とカートの中身を比較して確認する
……大丈夫、買い忘れはないわ………
しっかり確認した後、精算をすませる
……両手いっぱいの荷物
「やっぱり量が多いわね……」
やっぱり、買い物につきあって貰った方が良かったかしら?
出かける前につきあうと言ってくれたけれど……
スコールをつれて、エルオーネと一緒に?
……かえって大変そうだわ……
出かける前に思った事をもう一度思い返す
ラグナが暇だったら良かったんだけど……
残念な事に、ラグナは今の時間は仕事の最中だ
……あら?ラグナと言えば……
ふと思いだし、小さなメモを取り出す
ラグナからの頼まれ物
…………文字を追い、レインは眉をひそめる
書かれた品物は5つ程度だったけれど……
「もぉ、持って帰れないわよ」
いずれも書籍
名前だけで、どんな本なのか判断する事はできない、が……
ラグナの事だから、立派な本なのは間違いないわよね、見る限り雑誌ではないみたいだし……
ラグナが持っているのは、分厚い専門書や、雑誌がほとんど
小説とか、そんなたぐいの物でも難しそうな……
あら?
よく見れば可愛らしいタイトルの本も混じっている
ラグナが読む、なんて事はないわよね?
「仕方ないわね」
きっと、これは子供達の為の本
配達して貰うって手もあるわ
荷物を抱え直し、レインは歩き出した

今日買ったばかりの食材で、レインは料理を作っていた
いつもなら、自主的に手伝いに来るはずの、エルオーネは現れない
隣の部屋から聞こえる賑やかな声
それも、仕方ないか
多少脱線しながら、ラグナが本を読み聞かせている
子供達の笑い声が聞こえる
「……ちょっと悔しいわね……」
実の所を言えば、本の内容よりも、脱線したラグナの話の方が楽しい
手際よく食材を切り刻み、鍋の中へと放り込み、煮込む
今日はこれで、がまんして貰いましょう
下手をしたら延々と続く話を密かにレインも楽しみにしている
火力を小さくして、隣の部屋の入り口に座る
鍋をかけている事を忘れないようにしないと……
鍋に意識を傾けながら、レインはラグナの話に耳を傾けた

良かった
賑やかな食卓で、レインは料理に口をつけ、安堵の息をもらす
煮詰まってた料理は、それなりに美味しくできあがっていた
すごい勢いで食べていく、二人の男達は気がつかない
あら?やっぱり分かった?
不思議そうにしているエルオーネと視線が合う
そっと、人差し指を口元へ
内緒にしてね?
帰ってくるのは共犯者の笑み
「おいしいね?」
絶妙なタイミングの言葉に、笑いがこみ上げてくる
もうっ、なんて事言うのよ
「なんかあったのか?」
不思議そうなラグナの声
「秘密だよ」
楽しそうなエルオーネの声
聞きたがるスコールの声がして、たちまち、騒ぎが持ち上がる
「もう、静かにしなさいっ!」
いつも通りの言葉
いつもの様に騒ぎが収まるのはほんの僅かの間
仕方ないわね
レインの口元に微笑みが浮かぶ
賑やかなのは決して嫌いじゃないから
本気じゃないことを子供達は気づいている

そして、今日も賑やかに一日が過ぎていく 

 

 
END