休息


 
高い青空
そして草の匂い
小さな草むらの上を静かに風が渡っていく
穏やかな日射しに誘われる様に眠りにつく

遠くざわめきを聞きながらレインは、足早に庭を歩いていた
暖かい日射しの下、目的もないままゆっくりと歩く
贅沢な時間
木々が植えられた庭園
整然と植えられた木々の中で、一角だけ雑然とした場所がある
ほんの少しだけ不自然な場所
辺りには人の気配がしない
レインの心に生まれたのは小さな好奇心
何もないのかもしれないけれど
「大丈夫よね?」
もう一度、レインは辺りに誰もいないのを確認する
子供達に足を踏み入れないように言っている手前、後ろめたさを感じながら、そっと木々の間へと足を踏み入れた
日射しが柔らかに遮られ、微かな風が髪を揺らす
枝を掻き分けて進んだレインの目に青い芝生が現れる
あら?
木々の中に囲まれた小さな広場
「ラグナ?」
中央に、ラグナが横になっていた
慌てて、近づけば、穏やかな寝息が聞こえる
……もぅ……
「こんなところで、何やってるの」
何かあったのかと思ったわ……
レインは静かに、枕元へと腰を下ろした
秘密の隠れ家ってところね
葉を茂らせた木々が、この場所を隠している
木漏れ日が降り注ぎ、そよ風が髪をゆらしている
「風邪を引くわよ」
…………起きないわね……
そっと声を掛けるが、目覚める気配がしない
そっと手を伸ばし、顔を隠している髪を掻き上げる
ほんの微かな身動き
レインは、反射的に触れていた手を離す
……起きなかったみたいね……
呼吸を殺してそっと様子を伺い、不意にレインは苦笑する
起こすつもりだったのよね?
「もう、いったい何をやって……」
少し手荒に、ラグナを揺り起こす
「……うん?」
寝ぼけた声
そして、目が開かれる
「起きた?」
問いかけの言葉にラグナはゆっくりと瞬きをする
「……レイン」
小さく名前を呼び、そして……………
「こんなところで何やってるのっ」
レインは、突然ラグナを遠慮無く叩き起こす
「レイン!?」
ラグナは、驚いた様な声を上げながら飛び起きる
そして、何が起きたのか解っていないのか、辺りを見回している
「……仕事中じゃなかったの?」
なんでこんなところで寝てるの?
わざと作った呆れたようなレインの言葉に、ラグナは慌てて言い訳を探している
「探してるわよ?」
レインは大きく息を吐き顔を背けて、木々の向こうを指さす
「……みたいだな……」
レインの耳には、ラグナを探している人の声は聞こえなかったが、ラグナには聞こえたらしい
「……それじゃあ……」
慌てて走り去っていくラグナの足音が聞こえなくなった頃、レインはそっと胸を押さえた
…………心臓が止まるかと思ったじゃない……
大きく深呼吸をして、上げたレインの顔は微かに赤く染まっていた
不意打ちだわ……
あのときラグナは、レインを見て幸せそうに微笑んだ
「卑怯者」
レインの呟きは、辺りを被う木々に吸い込まれた

心地よい風邪が頬を撫でる
ゆっくりと熱が引いていく
鼻孔ををくすぐる、草の匂い
見上げれば、木の葉を透かして、柔らかな光が降り注いでいる
 

END