キャンプ


 
『明日の天気は快晴…………』
つけっぱなしのラジオから、天気予報が流れる
『全国的に良いお天気が…………』
続けられる言葉を聞くともなしにラグナは聞いていた
……天気が良いのか……
果てしなく続く青空は気分が良くなる
が、夏の時期はとにかく暑い
ふと、森の奥にある湖の事が頭に浮かんだ
「………明日キャンプにでも行くか?」
呟いたラグナの言葉がやけに大きく響いた

木々が深く茂る森の中は、緑の葉が幾重にも重なりあって、黒く染まって見える
夏の日射しが、厚い木の葉に遮られている
湖の水は突き刺さるかの様に冷たい
夏の暑さをしのぐには絶好の場所
「これは確かに、穴場だわ」
水を汲みながら、レインは小さく呟いた
「……でもね……」
暗く遮られた日射しは、地面まで届かない
木々が生い茂る森の奥まで訪れる人はいない
レインは深いため息をついて、周囲へ目を向ける
薄暗い森の中、他に人影はない
「キャンプ向きの場所とは言えないわね」
汲み終えた水を持ち、レインはテントへとゆっくりと引き返した

「…つれないね」
湖の真ん中の小さな船の上、スコールは水面を覗き込んでいた
「こういうのは、持久戦だからな」
釣り竿を持ちながら、のんびりとラグナが答える
「焦れば焦るだけ、つれなくなるってことよ」
不思議そうな顔をしたスコールに、エルオーネがもっともらしく説明する
「……そうなの?」
スコールは、確認するようにラグナを見上げる
下手なこと言うとエルが怒るしな
「ま、そうだな」
2人のやりとりに、笑いをかみ殺しながらラグナは無難な答えを返した

「それで、結局魚は釣れたの?」
石を積み上げてつくった竈に炎が揺れている
「釣れたことは釣れたんだけどね…………」
歯切れ悪く答えると、エルオーネは火にかけられた鍋をかき混ぜる
「そう」
食べられる様な魚は釣れなかったってところかしら?
ラグナに向いているとは思えないものね
なんとなく事情を察しながら、レインは料理を作って置いて正解だったと安堵していた
「それで、2人はどこにいったの?」
任せておけって言った手前、戻るに戻れないのかもしれない
「………狩りに行くって……」
「…………え?」
周りを冷たい空気が流れて行った

夜の闇の中で、炎が赤々と燃えている
捌かれた鹿の肉が火に炙られている
火の上には、良い匂いを放ち、湯気を立てる鍋
周囲には、興奮したような子供の声が響いていた

そして、深夜
子供たちが寝静まった頃、大人たちはこっそりとテントを抜け出した
「来て良かったわね」
テントを振り返りささやかれる言葉
それから、優しい笑みを浮かべた
 

END