「あ、なんかやってる！」
友達が指さした方を見てみたら、人だかりができていた
「行ってみる？」
内緒話をするみたいに、額を寄せ合って相談
そして、みんなで笑いあう
気になるものね、見てみたいよね？
お互い確認するみたいに頷きあって人混みの中を走っていった

来なければ良かった
ほんの少し前までの楽しい気分が無くなって、同じ言葉が頭の中をぐるぐるまわってる
「どいてってばっ！」
大人に押しつぶされそうになった友達が声を上げる
「……大丈夫？」
元気の無い私を気遣う声
「うん……」
押し寄せる人混みでもみくちゃにされる
「もぅ、これだから大人なんてっ！」
……ごめんね
もみくちゃにされて具合が悪くなったって思っている友達に心の中で謝る
人混みが平気って訳じゃないけど、本当は違うから……
「……気付いて助けてくれれば良いのにね」
そう言って見る視線の先には……
「ちょっと無理だと思うよ」
仕事をしてるおじさんの姿
「……きっと見えないもんね」
悔しそうな友達の顔に胸が痛んだ

「ホント、今日はごめんね」
「あの人だもん、気分悪くなっても仕方ないよ」
別れ際、もう一度謝った私に返る言葉
「気にしないでね」
みんなで手を振ってお別れをして
「ごめんね、嘘ついて……」
絶対に聞こえない声で呟いた

「今日ね、街でおじさん見かけたよー？」
みんなそろっての夕食の時間
「へ？見かけたって……」
「仕事してたでしょ？私ね、あの人混みに巻き込まれてたんだよ」
「そ、そうなのか？」
「……娘の危機に気付かないなんて、ダメだよねー？」
慌てているおじさんを横に、冗談めかしてレインに問いかける
「そうね、せめて居ることに気付く位はして欲しいわね」
「いや、それはさ……」
慌てるその姿に２人で笑い合う
………冗談でなら言えるのにな……
娘とか……
…………お父さんとか、お母さんとか………………

「エルの家はダメなんだっけ？」
「……ごめんね」
家に遊びに来てって言うことができない
隠してる事がいっぱいあるから

学校で、友達同士で、家の話をする
お父さんとか、お母さんとか……兄弟とか
『お父さんがね』
って当たり前みたいに言う言葉
私には内緒にしている事がある
『お父さん」っていってる相手が誰なのか
そして、嘘もついてる
『お父さん』がお父さんじゃないこと、『お母さん』がお母さんじゃないこと

嘘をつきたい訳じゃないし、つくつもりも無かった
だって、本当のお父さんとお母さんには悪いと思うけど………
逃したのはタイミングだと思うから
きっかけがあればきっと…………
そうしたら、みんなを家に呼んで、自慢するから
もう少しだけ………