夏の涼


 
「夏の旅行って言ったら海だよな……」
窓の外、照りつける太陽を見上げ小さく呟く
暑さを逃れ、涼を取るための休暇
「……はぁ」
ラグナの独り言に、すぐ側に居た補佐官が曖昧な返事を返す
涼しんで来いと言われて、わざわざ暑い所へ行く気はしねーんだよなー
どんなに人気があろうと、炎天下の元歩いたり、待たされたりする所は避けたい
そもそも、そんな環境は、子供達が真っ先に音を上げる
「涼しさを求めるなら海か山ではありませんか?」
涼しげな高原と、冷たい水がよせる海
確かにどっちも涼しそうなんだけどよ
「…………この辺で、涼しさを感じられる高原なんてあるか?」
ただ“山”と言うならば、国土の北側にそれこそ山の様に存在する
だが、その山々は……
「確かに手頃な山は見あたらないな」
言葉と同時に。目の前に書類が積み上げられる
…………………
今は仕事をしろという無言の圧力を感じる
「でも、泳げるような海岸線もありませんよね?」
ため息と共に書類に手を伸ばしたラグナの耳に小さな呟きが聞こえた

灯りの消えた室内
微かな光と共に浮かび上がる映像
「……この辺から……」
微かな呟きと共に、白い入り江と深い森が映し出される
「……だとやっぱ……」
次々と映し出される映像の先には碧い海が広がっていた

―――今度の休みは海に行こう
告げた言葉に不思議そうな顔
―――海に泳ぎに行こう
そう言ったとたんに変わる表情
嬉しそうな子供達の側で
―――準備が必要ね
レインが難しい顔をして呟いていた

休日の早朝
晴れ渡った空の下まだ眠そうな子供達をつれて出発する
先日強引に切り開いた森の中の道を抜けて
誰も知らない秘密の入り江へと

強く、弱く、繰り返される波の音
不意に開けた視界の先に海が広がっている
白い海岸、小さな入り江
両側にそびえる切り立った岩場
視線の先、遠く続くはずの海原
遠く、この地を囲むようにそびえる岩影が見える
外海から隠されたこの場所に、歓声が響いた
 

END