温度


 
玄関のドアを開けるとほっとする
暖かな空気を感じるから

扉を開けると同時に聞こえる、にぎやかな声
奧の部屋から感じる人の気配
毎日繰り返す当たり前の出来事でも
この雰囲気を感じる事で『帰ってきた』って実感できる
扉を閉めたところで立ち止まり、家の空気を感じる事がいつの間にか習慣になっている
家の奧から、足音が聞こえる
パタパタという軽い子供の足音
自然に笑みが浮かぶ
奧の部屋に向かって歩き出したのと、扉が開いたのはほぼ同時
自分を見つけた顔が満面の笑みを浮かべる
「おかえりなさい、おとーさんっ」
声と同時に走り寄ってくる身体を受け止め
「ただいま、今日も良い子にしてたかぁ〜?」
抱き上げる
声を聞きつけて、向かってくる足音
「おかえりなさい」
駆け寄ってきた少女の頭に手を乗せる
そして、開け放たれた扉から見える後ろ姿
毎日、それほど変わる事無く繰り返される光景
子供達が話す言葉に耳を傾けながら、部屋の中へと足を踏み入れる
テーブルの上にはほとんど準備を終えた夕食が並べられている
「おかえりなさい、良いタイミングね」
料理の手を止めずに掛けられる声
「すぐに食事だから、着替えたらそのまま降りてきてよ」
今日の献立を確かめ、階上へと向かう背中に声が掛けられる
「わかってるって」
いつも交わされる何気ない会話
心が温かくなるっていうのか?
ほっとするんだよな

深夜、すでに家人はみんな眠りについている
明かり一つ無い真っ暗な家の中
窓から見えるのは
一人取り残された様な気になる、寂しい風景
どこからともなく、伝わってくる人の体温
さっきまで、寂しいと感じていた同じ光景が優しく感じるのだから
現金、だよな

たぶん、この場所があるかぎり、ここに帰ってくるかぎり、いつでも暖かい気持ちになれるだろう
それはここが一番安心できる場所だから
 

END