秘密


 
そわそわと落ち着かない風情で部屋の中を行ったり来たり
珍しく袖を通した正装は、あまり似合ってるとは言い難い
見慣れないっていう事もあるのかもしれないわね
うろうろと目の前を行ったり来たり、何度も通り過ぎる姿
―――やっぱり、似合わないわ
身体の動きを妨げる様に見えるこの服装は、やっぱり似合わない
「こういうのは、嫌いなんだけどな」
小さな声で告げられる言葉
立ち止まって吐く、長いため息
「そろそろ、諦めたらどう?」
これもあなたの仕事の一つでしょ?
「けどなぁ……」
私の言葉にようやくこっちを見たラグナが、情けない表情で何かを言いかけやめる
そ、いまさら言っても仕方ないわ
ここ数日、何度も繰り返されたやり取りの末、根負けしたのはラグナ自身
その結果の正装も、式典への参加もしかたのない事だと思うわ
記念式典への参加
信じられない話だけれど、
まだ、魔女の影響が残っているからとか
様々な言い訳をして、今まで公式行事への参加を拒んでいたらしい
「そうかもしれねえんだけどよ……」
弱い声と共にがっくりとソファーへと座り込む
復興した街、平穏と言える人々の生活
「いい加減覚悟を決めなさい」
笑いながらの私の言葉に、恨めしそうな視線
「楽しそうだな、レインは」
そうね、確かに楽しいわ
それにそろそろ国民を安心させてあげる義務があるんじゃない?

「テレビで見てるわ」
そう言って送り出したのはほんの少し前の事
画面に映るラグナの姿は
さっきまでの態度は何処に消えたのかと聞きたくなるような堂々とした態度
緊張して、家を出るまではあんなに大騒ぎしていた筈なのに
自信に満ちた視線に口調、誰よりも人目を引く
時折見せる見慣れない顔
「いつもコレだと困るんだけどね」
私が愛したのは、少しだけ変わった極普通の人だから
「たまには、ね」
こんな彼の姿も素敵よね?
本人には絶対に言わない言葉
そして、私が上機嫌な理由
 

END