花火


 
夏も盛りのこの時期に
近くで花火大会が行われた

「今日友達と花火見に行って来るね」
ただいまの挨拶もそこそこに、遊びに行っていたはずのエルオーネが飛び込んで来た
「花火?花火大会の事?」
確か今日はエスタからほど近い海岸で小さな花火大会があるはず
「うん、友達のお父さんが連れて行ってくれるって」
『友達』と一緒にどこか遠くへ出かけるなんて、初めてよね?
楽しそうなエルオーネの様子に安堵する気持ちと共に笑みがこぼれる
「そうなの?それなら行ってらっしゃい、けれど騒いだりしちゃダメよ?」
そう言っても無駄でしょうけど、ね
騒ぐな、なんて言われて、騒がずにいられる筈が無いもの
「解ってるから大丈夫」
そう答えながら持っていたカバンを投げ出し、エルオーネは落ち着き無く走り去る
はしゃいでいるあの子の姿に心が少し軽くなる気がする
複雑な環境のお陰で、なかなか友達を作ろうとはしなかったし
……それに、私達にも少し遠慮がある様で寂しかった
けれど、きっと大丈夫よね?
友達のお父さんが……なんていうのなら、きっと此処に迎えに来る筈だもの
エルオーネは、色んな事を考えている子だから……
そのお友達も、両親も、ここに連れてきても大丈夫ってあの子自身が判断したんだと思う
「後で報告しないとね」
きっとこの変化を一番喜ぶ筈のラグナの事を思い浮かべた

迎えに来た友達とそのお父様と挨拶を交わした
彼等はエルオーネが信頼するだけあって、権力には全く興味が無いっていう、素朴で暖かな人物だった
きっと、ラグナがいたら気が合っていたわね
そんな事を思って小さく笑いを浮かべていたら
「おかーさんっ、僕も花火みたい」
夕刻、出かけていくエルオーネの姿を見てスコールが訴えた
あら……困ったわね
連れていけないなんて言っても納得しないわよね?
期待を込めた目がじっと見つめている
「そうね………」
花火、か
私もしばらく見た事が無いわね
海岸はここからすぐ近くだし
小さなイベントの割には、会場へ向かうバスが定期的に動いている
勿論、帰りのバスも万遍なく出ていて、いつでも戻れる様になっている
今日はラグナも遅いって言ってたから、連れて行って貰うわけには行かないけれど……
少しくらいなら問題無いわよね?
「なら、お母さんと一緒に行こうか?」
「うんっ!」
覗き込んだスコールの顔は満面の笑みを浮かべていた

淡い藍色の夜の空に色とりどりの花が咲く
「綺麗ね……」
思わず呟いた呟きは打ち上げ花火の音にかき消される
隣で魅入られた様に空を見つめるスコールの姿
空に散る火花が、大きく見開いた目に映し出されている
色とりどり、大小様々の光が空を彩る
次々と上がる花火に、時間も忘れて見入っていた

「俺も行きたかったなー」
深夜、興奮した子供達を寝かしつけた後、拗ねた様にラグナが呟く
「今度みんなで行きましょう」
「ほんとだぜ?」
レインは少しだけ罪悪感を感じながら、笑ってラグナへと提案をした
 
 

END