微睡みの後に


 
穏やかに降る雨の音は優しく眠りへと誘う

微かに聞こえてくる音
耳を澄ませて初めて気が付く位の静かな音
単調なリズムが何故か眠りを誘う
いつもより下がった気温が感じさせる肌寒さ
温もりを求めた無意識の行動
人の放つ体温で暖められた室内の空気は心地よくて
時折落ちてくる瞼
ウトウトと微睡む瞬間
心地よい感覚で訪れる眠りの波に耐えられなくて
それでも意識のどこかで眠ってはいけないなんてブレーキが働く
それでも、雨音しか聞こえない静かな時間に意識が眠りへと傾いていく
もう半分以上眠っているのかも
ぼんやりとした意識の中で浮かぶ言葉
いっそのこと、寝てしまおうかしら?
皆出かけて誰もいない家の中
このまま、誘われるままに眠りにつくのも良いかもしれない
大きな欠伸を一つ
微かな雨音、心地よい体温
幾度も訪れる心地よい誘いに我慢出来なくて、眠りの中へと落ちていった

賑やかな音が耳を刺激する
近くを通る人の気配を感じる
………?
開いた目に入るのは電灯のまぶしい光
起こした身体の上から、一枚のブランケットが滑り落ちる
あら?
覚醒しない意識のままゆっくりと視線を巡らせる
はっきりと聞こえて来る賑やかな声
パタパタと音を立てて走る足音
軽い足音が一つ近づいてきて、勢いよく開いた扉から顔を覗かせる
ぴったりと正面から目が合う
風船が割れる様に、突然意識が覚醒するのと同時に
「あ、お母さん起きたっ」
嬉しそうな声と、小さな身体が突進してきた

不覚をとったわ
外の景色は、とっぷりと日は暮れて闇夜が広がっている
それとは逆に家の中を煌々と照らす灯り
出かけていた筈の家人は眠っていた間に全員揃っていて、食事の準備まで終わっている
スコールに手を引かれたどり着いた食堂で、レインはがっくりと肩を落とす
“疲れてたみたいだから”なんていうラグナの言葉は本当はレインの台詞
疲れていたからではなくて、心地よくて眠りに落ちた
そんななんでもない事だっていうのに、気をつかって起こさずに居てくれた
………困ったわ
何故起こさなかったの、なんて言える訳が無いし
気をつかってくれた相手にそんな事を言うのは筋違いだって解ってる
でもね………
楽しげに話しかける子供達に返事をしながらも、感じるのは複雑な心境
いつもよりはしゃいだ2人の様子
出かけた先の事よりも、手伝った料理の事を一生懸命に話している
そして、にこにこと楽しそうな………
もしかして、複雑に感じるのは私がやりたかった事をやられてしまったから?
笑顔と共に零れ落ちる言葉は1つだけ
「ありがとう」
レインの言葉にとびきり嬉しそうな笑顔が見れた
 
 

END