真夜中の帰宅


 
日が暮れて忙しい一日が終わる
特別に何か問題が起きた訳じゃないのに、何故かこの季節は忙しくなる
まぁ、確かに行事がいつもより多くなってはいるんだけどな
自分だけが忙しい訳じゃなく周りの奴等は皆平等に、きわめて忙しいみたいだから、文句も言えずに仕事に打ち込んではいるけれど
それでも、連日日付が変わる直前まで解放されないなんていうのはちょっとばかし忙し過ぎると思うんだけどな?
愚痴を言う暇も無いほど忙しい時間を過ごす
山の様に積まれた仕事は、どこまでやっても終わらない
―――終わる側から誰かが継ぎ足していってるよな
胸の中で愚痴りながら仕事をして、今日も“今日”が終わる頃家の扉を開く
明かりは消され、暖房も落とされて
普段よりもだいぶ遅い時間には、既に“家”は眠りについている
「ただいま」
口の中で呟いた言葉に返る声は無い
いつもなら飛び出してくる賑やかな声も聞こえない
暖められていたはずの空気に混じる冷気
間接照明が微かな光を灯す
微かに残る人のぬくもり
寝静まった家の中を足音を殺し部屋へと急ぐ
途中、扉の前で聞こえる微かな寝息
足が止まる
―――最近子供達とまともに顔を合わせてねーぞ
数時間前に零した愚痴は、仕事にいそしむ友人の手で綺麗に無視された
扉が滑らかに開く
気配を殺してこっそりと部屋の中へと滑り込んで、ベッドへと足を運ぶ
目に映るのは穏やかな寝顔
ほんの少しだけ満足して、そっと部屋を出る
同じ行為をもう一度違う場所で繰り返して、さっきよりも幾分ゆっくりとした足取りで部屋へと向かう
廊下へと漏れ出る微かな明かり
部屋の中へと灯った明かりはまだ眠っていない事を告げている
微かな音を立てて扉を開く
まぶしい程の光と暖かな空気が身体を包む
部屋の中に、こっちを振り返った姿がある
「おかえりなさい、今日も長かったわね」
柔らかな声が耳を打つ
「ただいま」
いつもの挨拶、変わらない言葉が少しだけ嬉しくて、ほんの少し声が弾む
軽い音を立てて扉が閉じる
近づいてくるいつもの笑顔
ゆっくりと動く唇
穏やかな声が言葉を紡ぐ
いつものように今日一日の出来事を話して、幾つもの会話を交わして
変わらない日常に、ほっと感じる安堵
「早く休みになんねーかなぁ」
こぼれ落ちる本音に笑いを含んだ励ましの言葉が返る
だいぶ増える満足感
“幸せな気分”を抱え込んで、明日に備えて眠りにつく
明日もまた忙しい一日
次の“休暇”は年が明けてから
 
END