過去に思いを馳せて


 
エスタが落ちついたら―――
かつてラグナがいった言葉
かつて、“国”と交わした約束
エスタに来た当初はすぐにここを出ていく事になると思っていた
それからしばらくして、1、2年はここに住む事になるかもしれないと当たりをつけて
2年が経つ頃には、この国で暮らすのも悪くないと思い………

エスタという国
私が知っていたエスタという国は悪いイメージだけ
彼等のせいで苦しんで
彼等のせいで人が死んで
当たり前の幸せを壊した魔女の手先
それが全てで、それ以上は知る必要も無かった
エスタという国
良く無い感情ばかりを呼び起こすこの国に、来る事になった時の心境
深いエスタの事情と
複雑な状況
ラグナの言葉を聞いても簡単に気持ちを切り替えられる筈はなくて、様々な心境が入り交じったとっても複雑な気持ちを抱いていた
特に強かったのは、エスタに対する恐れと怒り
強い感情と共に、エスタへと到着した私を待っていたのは、荒れた街と疲れ果てた人々
“魔女”の脅威は全ての人に平等に降り注いでいて
私と同じように苦しんだ人
それ以上の苦しみを味わった人
魔女の恩恵に与った人は、魔女と一緒に駆逐され、一人も残っていなかった
そして抱いたのは、より一層複雑な心境
『同じ兵士だからといって、皆が皆、悪い人という訳じゃない』
知っているふりをして、かつて言った自分の言葉
身を以て体験して、初めて実感できた事
それから時を重ねて、彼等を知って
本来の“エスタ”の姿が漸く見えて来た

「落ちついたらウィンヒルに戻る、はずだったんだけどなぁ」
静穏の中で時折ラグナがぼやく
「良いじゃない、エスタにいるのも悪く無いわ」
「エスタにいる事自体はいいんだけどよ」
もっと気楽に暮らしたいというラグナの言葉には、同意もするけれど………
「頼られてる内が花っていうじゃない」
そう言って、急き立てる人々の元へとラグナを送り出す
“エスタ”という国、エスタに住む人々は嫌いでは無いけれど
私は、貴方に似た穏やかさに染まっていく、この国が好きなの

幾年かの年月が過ぎ
この国は落ち着きを取り戻したけれど
今は、一生この地に住んでも良いって、思っている
 

END