留守の間に


 
ドアを開けたら香ばしい匂いを感じた

「んで、今度は何をしたんだ?」
屋敷の中を奥へと進むにつれ、香ばしいを通り過ぎた匂いがしてきた
匂いの元になっているキッチンを覗くころには何となく状況は想像がついた
………何かを作ってて失敗して焦がしたってことだよな
「何って………」
扉の中にレインしかいないことを確認して、ラグナが恐る恐る問いかける
困ったような顔をして、レインが肩をすくめる
「レインのわけないし、エル、でもないよな」
出会ってから数年レインがこんな失敗をしたことなんかない
エルにしても、こういった単純な失敗をするってのはなかなか考えられない
「そうね、半分当たりで半分はずれかしら」
後始末の手を止めずにレインが答える
答える声はどこかやっぱり複雑そうだ
「あー、エルが失敗したってことか?」
半分はずれってのは、なんだろうな
「そうね、結果的にそうなったみたいよ」
「結果的に?」
「私が出掛けている最中の出来事なのよね」
レインが出掛けている間って………
「そりゃ、かなり危なかったんじゃないか?」
そう簡単に火事になるなんてことはないだろうし、もし火が噴いたとしてもすぐに消火される仕組みにはなっているはずだけどな
「ほんと、流石にきつく叱っておいたわ」
「それはお疲れ様、だけどさ、いったいどうしたっていうんだ?」
「実際に見たわけじゃないから詳しいことはわからないわよ」

キッチンからいつもとは違う音がする
………音自体はおんなじだけど、いつもと聞こえ方が違う
危ないから一人で入っちゃいけないって言われているけれど、音がするってことはお母さんがいるってことだよね
違和感を感じながらスコールはキッチンの扉を開けた
「………おねーちゃん、何やってるの?」
いるはずのお母さんの姿はどこにもなくて、かわりにいたのはおねーちゃん
「っスコール!?」
スコールの声に大げさなくらい驚いて、台の上を隠すようにしてエルオーネが振り返る
「スコールはここに入っちゃだめじゃない」
エルオーネの背後に広げられた料理の道具といくつかの食べ物
「一人じゃダメなだけだもん、おねーちゃんこそ一人で何してるの」
キッチンの扉を閉めてスコールはエルオーネの側へと近づいていく
「何か作ってるの?」
「そう、作ってるの、スコールは危ないから離れてて」
怒ったようにそう言うとエルオーネは置いてあった包丁を取り上げる
「おねーちゃんに作れるの?」
「スコールと違って、いっつも一緒に料理をしてるの!」
いいから黙って見てなさい
というエルオーネの言葉に従ってスコールは大人しく椅子に座った

「………僕もやりたい」
突然聞こえた声にエルオーネはスコールの存在を思い出した
そういえばスコールがいたんだっけ
「やりたいって………」
そう言われてもスコールにできるはずがない
答えに困っている間に、スコールが椅子から降りて近づいてくる
期待しているスコールの様子にエルオーネは“ダメ”とはいえない
「うーんと、それじゃあ………」
考えた末に、エルオーネはスコールに頼みごとをした

「って、つまり………」
「これはエルオーネとスコールの共同作業の結果ってことね」
「まあ、失敗は誰にでもあるもんな」
「それで済ませていいものなのか疑問だわ」
話をしている間、いつの間にか焦げくさい匂いが薄れていた

それから数日後、キッチンから3人の楽しげな声が聞こえる
目を離さないのが一番なのは確かだよな
ラグナは楽しげな声を聞きながらソファーへと沈みこんだ
 

END