花支度


 
冬の気配が近づいている庭先でいつもの庭仕事を少し
日差しは暖かくとも、時折指先が冷え込んで、冬が近づいて来ている事を改めて実感する
「何をしてるの?」
走り寄ってくる軽い足音と、遠くから呼びかける声
「お花のお世話をね」
笑って告げる私に、幼い子供は不思議そうに首を傾げる
手入れをしていた小さな庭木には、花は無い
色づいた葉もあらかた落ちてしまって、幹と枝のみの殺風景な姿
きっと幼い彼にしてみれば、これは“花”とは違うもの
「今年咲いてくれたお花にありがとうのお礼をするの、そして、また来年もよろしくってお願いしてるの」
そうだよね
という言葉と共に、得意気な表情で、見上げられる
「ええ、そうね」
幾年か前に彼女へと言った記憶のある言葉
「また次も綺麗なお花を咲かせてくれる様に、こうやってお世話をするのよ」
「ふーん………」
少し上の空な返事をして、興味深そうに作業をする手元を覗き込む
「私も手伝うね」
おぼつかない手つきで、見よう見まねで覚えた作業を真似る
「あら、ありがとう」
嬉しそうな笑顔
しばらく私達の様子を見ていた幼子が真似するように手を伸ばす
「あっ!」
「しぃ」
止めようと声を上げかけた彼女へ向かい、人差し指を一本唇へと当ててみせる
不安そうな目が私へと向けられる
「大丈夫よ」
こっそりと囁く言葉
「………うん………」
返事はしたものの、視線は不安そうに向けられたまま
同じ年頃のあなただって、同じ事をしたのよ
本人には告げない言葉を胸の内で囁く
小さな手が、緊張したようにぎゅっと握りしめられる
「大丈夫よ」
多少乱暴に扱っても、大丈夫
植物だって、強く育っているんだから
「そうならいいけど………」
納得は仕切れていない、少し不満げな口調
「―――できたっ!」
とても得意気な口調
「あら、上手にできたわね」
少し不格好ではあるけれど、この程度なら、充分許容範囲
満足そうなその様子に、私はそっと合図を送る
「じゃあ、あっちに行こうか」
延ばされる手に一瞬私へと視線が向けられる
僅かに迷う様子を見せて、差し出された手を握りしめる
「さて、とりあえずこれをどうにかしましょうか」
背中が見えなくなった事を確認して、私は再び作業に戻る
遠くで走り回る足音と楽しげな声
2人がそれぞれ手伝っていった花木へと手を伸ばす
これが終わったら今日は終わりにしようかな

日がかげり始めた頃、私を呼ぶ声に手が止まった
 

END