冬の温もり


 
吐く息が白く濁る
冷たい空気が喉に広がる
喉を刺激する空気に少しだけむせれば、心配そうに向けられる視線
「寒いわね、空気が冷たくて嫌になるわ」
そう言葉を漏らせば
「そうだな」
って同意の言葉と共に、視線が和らぐ
風邪をひいたのかもしれないって思った?
その心配はなさそうだって安心した?
わかりやすい反応に零れかけた笑い声をごまかす為に口元へ手を当てる
掌越しに流れ込む空気は少しだけ暖かい
呼吸が楽になった気がする
冷たい空気に喉が渇いちゃったな
喉が張り付く感触に何度か咳払いをして、ゆっくりと唾を飲みこむ
少し残る違和感
………ダメね
口元に当てていた手を喉へとずらす
「なんか飲むか?」
同じタイミングでかけられる声
触れた手が身体を引き寄せて、一件のお店が目に入る
なんの変哲も無い普通の飲食店
飲食店だから飲み物はあると思うけれど
私はそっと彼の顔へと視線を向ける
少しだけ急いで歩き出す足
目立つわよ?
口にする筈だった言葉を飲みこむ
たまには、ね
私は余り目立ちたくは無い
だから人前に出る事はほとんどしないでいたけれど
今日はただのプライベートだもの
たまには良いわよね
今も、人の視線は感じるけれど、話しかけて来る人は誰もいない
扉の開く音がする
手を引かれて、店内へと足を踏み入れる
暖かな空気に身体から力が抜ける
僅かな時間、視線が集まる
今度は緊張に身体が強ばるよりも早く、視線が逸れていく
近づいてきた店員が何事もなかったかの様に席へと案内してくれた

暖かな飲み物が喉に染み込んで行く
潤された喉から少しずつ違和感が消えていく
正面からじっと見つめられる視線
「もう、大丈夫よ」
私の言葉に安心したように笑う
そんなに心配する様なことじゃないのにね
でも
「ありがとう」
心配してくれて
そう告げれば、予想とは違って私の言葉をしっかりと受け止める
慌てるかと思ったのに、ね
思った通りの行動
予想外の行動
様々な行動が楽しくて
「そろそろ行くか?」
「そうね、これ以上ここに居たら時間が足りなくなるわ」
まっすぐに見てくれる態度に安心する

押し開いた扉の外
冷たい空気に身体が引き締まる
そっと取られた手のひらに無言で1つ飴が置かれる
包み紙をほどいて口に入れた飴は甘い味がした
 

END