「旅行でも行きたいなぁ?」
ソファーに寝ころびながらラグナが呟いた
「それも、良いわね」
忙しい事は知っていたから、笑ってそう答えた
それははもう数ヶ月前の事
正月の休暇と称してラグナの誕生日を含んだ2日間の休暇が、私にこっそりと言い渡されたのはほぼ1ヶ月前の事
ラグナに内緒の休日
……これは、何かイベントを起こせって事よね?
ラグナの友人達の意味ありげな顔にそう判断する
……そうね、きっと子供達も喜ぶわよね?

ラグナに内緒で、進める準備
「絶対に知られちゃダメだからね?」
そう言い聞かせた2人は、此処最近にこにことご機嫌でラグナの様子を伺っていた
『どうした?良いとでもあったのか?』
『なーいしょっ』
幾度か交わされる会話に笑いをこらえて見ていた
ラグナの助けを求める様な視線も気付かない振りをする
………いい加減、誕生日の件くらいは気が付いても良さそうなんだけど
結局ラグナは気付く事の無いまま
この日の朝を迎えた

「……は?」
いつも通り起き出して来たラグナの元に1本の通信が入る
「休日だと言ったんだよ」
ちらりと覗いた先には、真面目な顔をしたキロスの顔が見える
「んな話聞いてねーぞ?」
「そうだったかな?」
会話を聞きながら、ラグナの背後を通り抜ける
「じゃあ、荷物を持ってきてちょうだい」
ドアの影からこっちを覗いているスコールにお願いをする
「うんっ」
にっこりと笑って、走り去っていく後ろ姿を見守って
通話を切ったラグナの背中へとゆっくりと近づく
今から旅行に出かけるって言ったら驚くわよね……
……さて、なんて言うべきかしら?
レインに気付いたらしいラグナが振り返る
「今日さ………」
「おかーさーん、持ってきたよー」
休日を告げようとしたラグナの言葉を遮って
スコールが大きな荷物を手に駆け込んできた

視界が真っ白に染まる
冬の山は一面の雪に覆われていて、楽しげに斜面を滑り降りる人々の姿が見える
行き先も告げられず此処に来たラグナも嬉しそうに子供達を連れて出かけていった
初めてのスキーにはしゃぐ子供達に滑り方を教えているラグナの姿
見ていて微笑ましい光景
それに、ラグナも喜んでいるし、誕生日のプレゼントとしては最適なのかもしれないけれど……
ホテルの窓越しに見る3人の姿
「…………失敗だったわ」
手を振るエルオーネに手を振り替えして、レインはこっそりとため息を吐く
窓の外舞う白い粉雪、寒さに凍り付いた水の欠片
「……寒いのよね」
知っていたけれど判っていなかった現実
『今日は寒いから遠慮しておくわ』
笑顔で告げた言葉に偽りはない、けれど……
行きたい所を聞いた時に、2人があまりにも嬉しそうだったから忘れていたけれど
……滑れないのよね
ラグナの指導で見る見るうちに上達していく子供達の姿
さすがに、あの子達と一緒に教えて貰うっていうのはね……
楽しそうな3人の姿が見える
進展がある度に報告する様にこちらを見る姿
「………楽しそうだものね」
喜んでくれてるみたいだし、誕生日プレゼントとしたら上出来かしら?

穏やかな笑みを浮かべて、レインは彼等の様子を見守っていた

 

 

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