運動神経は悪くはない、と思う
あれだけ動けるなら、むしろ良いと言って問題ないかもしれない
けれど…………
スコールの目の前を、悲鳴と共に人影が通り過ぎていく
下の方で、盛大に上がる雪煙
スコールは、ため息と共に転がり落ちたラグナから視線を逸らした

『遊びに行きましょう?』
そう誘い掛けるエルオーネの足元には、いつの間に準備したのか、スキー道具が揃っていた
まっすぐに見つめる視線が自分に向いてる事に気付いた時には、すでに覚悟は決めていた
どちらかと言うと、何かが起きるだろう事は予測していたし諦めもついた
ラグナ本人ならともかく
今日に限っては、本人よりも周りが一生懸命だ
エルオーネに頼み込まれて断れる筈もないし
キロスやウォードの包囲は簡単に抜け出せそうも無い
素直に従った方が無難だから、割り切る事にした
そう思って、この方が近いからと用意されていたヘリに素直に乗り込んだ
……どちらかと言うと、ラグナの方が納得いっていないというか、下手な抵抗を見せていた
別に害がある事じゃない
そう思っていたんだが……
今目の前にあるのは、辺り一面を覆う、白い雪
御世辞にもなだらかとは言い難い山の斜面
そして、身も凍る様な寒さ
足下で、踏み固められた雪が音を立てる
「………何を考えて居るんだ……」
呟く言葉と共に眉間にしわが寄る
目的を告げられず移動したヘリから、ラグナとスキー道具と共に、無理矢理山の斜面に降ろされたのは、先ほどの事
『頑張ってね』
と告げた時のエルオーネの顔がとても楽しそうだった
投げ付けられたスキー用品を受け止め、呆然と見送ったスコールの隣に、ヘリにしがみついたラグナが蹴り落とされ
『まっすぐ降りればロッジだからねー!』
ヘリの音にかき消されそうになりながら、エルオーネの声が響いた

「………だから、嫌な予感がっ」
ラグナが息を切らせながら言う
スキー板を担ぎながら、斜面を下るのは重労働らしく額を汗が流れ落ちる
「……………」
ラグナのスキーの腕前は、御世辞にも上手いとは言えない
さんざん斜面を転がり落ちた末、滑り降りる事は諦めたらしい
「だいたい、なんだってこんなっ」
息が弾みながらも、喋るのを止めようとはしない
突然立ち止まり、派手な音を立てて、座り込む
「ちょっと、休憩」
ラグナが歩き降りた僅かな距離をスコールは滑り降りる
すぐ隣で板を止めたスコールをラグナが仰ぎ見る
「……………」
「……………」
降り積もったばかりの雪をラグナの手が掬い上げる
困ったように外された視線
「先に行って良いんだぞ?」
視線の先は、白く埋め尽くされた斜面が続いている
「……遭難するのか?」
一本道で迷う事はさすがに無いはずだ、それ以前に本当に方向音痴なのかも疑わしい
「………遭難はしないと思うぜ………たぶん」
心外そうで不機嫌にそう言ったラグナが、少しだけ嬉しそうに見えた

「まぁ、なんとかなるだろ」
覚悟を決めたのか、ラグナがスキー板を装着する
「どうもなぁ、コレは苦手なんだけどよ」
………苦手以前の問題だろう
「まぁ、歩くのよりは速いだろうしな」
不思議に危なげなく立ち上がる
「………んじゃ、まぁ、行くか……」
気の進まなさそうな言葉と共に、ゆっくりとラグナが滑りはじめる
「ちょっと、ま……」
斜面と直角に滑り降りる姿は、たちまちスピードに乗り
視界の端の方で、雪に埋もれた
「………………」

麓へと辿り着く頃、さすがにラグナもまともな滑りをする様に成っていた

 

 

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