エスタの奴等に常識は通用しない
望んだ訳じゃないが、エスタ政府と付き合ううちに深めた実感
年末は何事もなく過ぎ去った
年始は様々な行事で身動きが取れないはずだ
普通なら………
1月3日はラグナの誕生日
本人よりも、周りに要注意だ

それでも誕生日というなら
何か少しくらいはするべきだろうか?
………そんな必要は無い
浮かんだ考えを直ぐに否定しながらも、スコールはいつの間にか街中へと足を運んでいた

狭い車内に押し込められて数時間
重要な事が起きたと言われて辿り着いた先は何も無い雪原
「此処でどうしたって?」
視界いっぱい見渡す限り続くのは雪に覆われた白
こんな所で緊急事態なんてのが起きる訳も無いこと位は見れば解る
視界を遮るものなんて何も無いんだ、見落とすなんて事もあり得ない
こんな所まで連れてきて一体なんだって言うんだ?
「何、別に難しい事じゃない」
疑問が顔に出たんだろう、キロスが笑顔を浮かべてゆっくりと前方を指し示す
「ラグナ君は、あの辺りまで歩いて貰えば良いだけだ」
指の先は雪原の中央付近
降り続く雪も寒さも何も遮る事の出来ないこの場所でただ歩く、なんてのは無謀ってやつじゃねーか!?
「………何もないぞ」
こんな状況で、何が楽しくて歩く必要があるんだか………
「歩いていけば解る事だ」
モンスターをおびき寄せる為とか
「ただし、振り返ったらもう一度初めからやり直しだ」
また、宣伝か何かに使うのか………
そんな所なんだろうな
絶対に何か企んでいる顔をして、キロスが強引に背中を押す
慌ただしく何か準備を始める役人達の姿
「一体なんだっていうんだ?」
疑問の声に答えを返す者は誰も居なくて、ラグナは突き飛ばされるようにして、足を踏み出した

黙々と雪原を歩く姿が見える
言われた言葉を律儀に守ってでも居るのか、決して後ろを振り返らない
振り返りさえすれば、自分の無駄な行動に気が付くはずだが………
雪原の中には人影はない
人を強引に連れてきた彼等は、一台の車だけを残して早々に消えていった
降り続く雪のせいもあるのか、一連の騒ぎにもラグナは全く気付かなかった
見上げた空は暑く雲がたれ込めていて、これから先天気はますます悪くなりそうだ
さすがに、この状況で見捨てる訳にはいかないな
それにしても………
「いったいいつになったら気付くんだ?」
雪原の中央地点まで後少し
一変した辺りの状況にラグナはまだ気付かない

狭い車内の中凍えた身体がようやく温まっていく
雪原に取り残されたことに気が付いたのはつい先ほど
呆然とした自分の目の前に現れたのはスコールで
『鈍いな』
どこか怒ったように素っ気ない口調で言われた
「にしても酷いことするよな〜」
こんな所に置いていって、スコールが来なかったらどうするつもりだったんだろうなぁ
思い付くままに言葉を重ねていたから、隣からスコールのため息が聞こえた
真っ白い雪の中を車がスピードを上げる
「――――」
車のエンジン音に紛れて、スコールが何かを呟いた

雪がひどく降っている
状況を理解するよりも早く連れてこられた雪原
事態を飲み込めずにいる間に雪原に取り残された
『ラグナ君をよろしく頼む』
残されたのはそんな言葉と、車と、遠くに見えるラグナ
時はエスタ時間で1月3日―――
残された車の中には印がついた一枚の地図
釈然としないまま地図に従って辿り着いた先は………

窓の外に吹き荒れる雪が見える
エスタから遠く離れた森の傍にある古いホテル
雪まみれで辿り着いた自分達を出迎えたのはエルオーネの暖かな笑顔
そして―――
『―――誕生日だったな』
暖かな料理とそっけない言葉
驚きに目を見開いたラグナへと手渡される2つのプレゼント

誕生日に贈られた贈り物
心から望んでいた憧れの情景
家族と迎える誕生日
 

 

 

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