ウキとバランスの話 後編  (2003年掲載分) コラムの目次に戻る ホームページのトップに戻る
  磯釣りでのウキ釣法を始めたばかりの釣人のほとんどは、ウキ選びにはそれなりに神経を使う為に、結構高価なウキを揃えている場合も多い様ですが、これらのウキを使いこなす事はかなり至難の技なのです。
せっかくウキだけを高価な名人級のウキを用いても、以前から話している様に、実釣時におけるタックル全体のバランスが良くないのでは意味がありません。
いくら高価で良いウキを用いても、タックル全部のバランスがとれていないとウキがその機能を発揮しないばかりか釣れる魚も釣れませんから、宝の持ち腐れ状態を余儀なくされます。

ウキを選ぶにしても、通称名人ウキなどは伊達に値段が高いのではなく、ウキ自体にはそれぞれに独特な理論から創り出されたアイディアが含まれた特徴がありますから、これらの個性を知っておく必要があります。
ウキそれぞれの特徴に合わせたタックル全体のバランスを考える場合例えばウキが丸ウキなどで小粒であればあるほど、ライン(ミチイト、ハリス)は細く、ロッドも細身で軟調な物が適合します。

 もし、ウキに適合しない太いラインや、硬く太いロッドを使用した場合には、ウキはラインの重さと、ライン自体の空気や海水面の抵抗によりウキはラインに翻弄されて本来の機能を発揮しないばかりか、本来は海面に浮くはずのウキも、海中に沈んでしまったり、ラインの動きに振り回され海面で暴れてしまう事になります。
しかも、本来であれば微妙な魚の当たりもキャッチしてくれる筈のウキであっても、その機能が発揮できずに、折角のチャンスもバランスの悪さが災いして遠のいてしまいます。

更には、ウキを巻き上げた場合に、ウキの自重によりロッドが適度に曲がってくれないと、ウキを含めた仕掛けを投げ込む操作にも支障をきたしますし、仕掛けなどがロッドに纏わりつく現象が発生します。
一方これとは逆に、同じウキでも大きく自重のあるウキを使用するにも拘わらず、細いラインと軟調のロッドを用いた場合は、仕掛けを振り込むにもロッドがウキなどの重さに負けてしまい、遠投どころか、僅かの距離にも仕掛けは飛び難く、ロッドに不要なブレが発生する為に振り込みの方向性も不安定になるなどの弊害が生じます。
これらのアンバランスな組合わせにより発生する不都合な現象は、更なる多くのトラブルを生み出す原因にもなります。

「バランス」と言っても、それではどの程度のタックルや仕掛けが適正なのか?具体的に説明しろ・・・・とのご意見が聞こえてきそうな感じがします。
確かに、バランスと一言で言うのは簡単ですが、具体的な例を形にして説明するとなると案外難しいものです。
そこでクロダイ釣りの実践例などの経験から紹介する事にしましょう。

小形の円錐ウキを用いた釣法の場合で、ガイド付きのロッドを用いて釣るとした場合であれば、釣りをする時期でも多少異なりますが、晩秋や冬期間の荒凪の時期を除けば、リールに巻くミチイトは2号で、ハリスは1.5号クラス、針はチヌ針の2号程度を用いるのが標準的な仕掛けであり、ロッドはチヌ竿か磯竿の1号でリールはスピニングでミチイト2号が150m巻けるものであればよろしいかと思います。

 現在市販されているライン(ミチイト、ハリス含む)の強度は、メーカー品で比較的価格が高い方であればまずは安心できます。以前、自分がある釣り雑誌でクロダイのパワーについて持論を書き込んで多くの読者から反響を得た事がありますが、クロダイが針掛かりした時に引き込むパワーを数値的に表すとした場合、実際はどの程度なのでしょう? 
一般の釣り人が感じているそのパワーとは、クロダイの体重プラス引き込む力だから、仮に1kgのクロダイが引き込む時は1kgプラス○○gだから、少なくとも1kg以上の負荷が使用タックルや仕掛けにには加わると思われている様なのですが、実際はクロダイの場合、その体重の半分ぐらいの負荷程度しか釣り人が使用するロッドやラインにはかからないのです。

 1kgのクロダイの全長は約40cmですが、実際に今の話しを意識して、ロッドに錘でもぶら下げてみると実感として判る筈です。 通常、1kgの錘は鉛の号数で約260号です。
40cmのクロダイを釣った事がある人ならばすぐに理解できると思いますが、錘に換算すればせいぜい120号程度ですから、実際の重さにすれば0,5kg弱と言う事になります。
従って、これだけの重さ以上に耐える仕掛けであればクロダイなら大丈夫であるとの理論が一応成り立つ事になります。
それならば、0.5kg程度の引っ張り強度を持つハリスなどのラインの号数はいったい何号になるのでしょうか?   
 実際の号数からすればなんと0.4号クラスのハリスの強度なのです。 
ただし、皆様がご存知の通り、ハリスは勿論、ラインそのものは、結節部分が極端に弱くなりますから、この数値はあくまで結び目がない場合のテスト強度の事です。

 話しのついでですが、これらラインを結節する場合の注意点としては、色々な結節方法がある訳ですが、要は、結節部分を締め込むと結節部分が締め込まれる事によって、結節部がずれたり、ライン同士が締め込みによってライン自体が潰れたり、細くなってしまう結節方法は適切ではないと言う事なのです。
また、仮にミチイトとハリスを結ぶ場合、この結び目にサルカンなどを用いた方が結び目の強度が向上するのですが、直接的に結んだ場合などで、ミチイトとハリスの太さに隔たりがある場合などには、(例えば、ハリスが1号にミチイトが3号)ハリスだけに負担がかかる事になり、びっくりするほど簡単にハリスが切れてしまう現象が起き易くなるのです。
仮に、この時と同じ負荷をかけたとしても、ハリスは同じ1号でも、ミチイトが2号であればハリスは切れないですむ事が多いのです。

もっとも、これらの話しは、ミチイトとハリスがナイロンやフロロカーボンの場合であって、最近よく使われる新素材のPEラインのデーターではありませんので、混同しないでください。

ナイロンやフロロカーボン素材のラインの場合には、ある程度の伸びがありますから、これらの伸びがクッション的役目を果たして、急激なショック的負荷がかかっても切れ難くなると言う事です。
また、これら仕掛けの延長線上にロッドの弾性や反発力があり、また、リールによってミチイトの張りの調整や、リールのドラグ調整やレバー操作などでのラインの送りだしなどでも仕掛け全体のバランスを維持したり、保持する役割を担う事になります。
従って、これらのハリス、ミチイト、ロッド、リールなどでの全体的使用バランスと操作テクニックで、トータルでのバランスが計られ、タックルの相互的互助により、本来、個々が持っている強度をフルに発揮する事が、自分も含めて、多くのテスターにより確かに実証される事になります。

今までにウキとその他のタックルのバランス関係を話してきましたが、高価なウキほど浮力やバランスについては繊細な造りになっています。
従って、高価なウキを使用する場合には、トータル的に繊細なタックルが必要となります。

ウキがいくら精巧で繊細に造られていても、ウキに付随する全てのタックルが追従していなければ、いくら高価なウキでもその機能は全く発揮しない事を肝に銘じておかなければなりません。
先にも話しましたが、円錐や丸ウキなどが小粒でしかも浮力の少ない物を使用する際には、ミチイトもハリスも極力細くしないとこれらのラインの抵抗で、ウキの機能は殺されてしまいます。

最近のラインはかなり丈夫になりましたから、ミチイトが1.5号でハリスが1号でも、余程の悪条件でない限り、例えばクロダイなら50cm程度までには十分に対応してそのパワーを発揮してくれると思います。
さて、ここで誤解を招くといけませんので、はっきりお断りしておきますが、繊細なウキと細いラインによる仕掛けを自分が推奨しているのではありません。
自分個人の仕掛けに対するポリシーは、釣れなくとも大振りの仕掛けをメーンで使います。
そんな訳で、魚を食わせるまでが大変ですが、その代わり、食わせたらどんな大物でも滅多にバラス事はありません〈笑)

話しは戻りますが、繊細な仕掛けの場合、魚が食う確率は確かに高くなりますから、食わせてからのロッドやリールなどの操作も繊細にしかも丁寧に、更にはタックルに対しても相当の神経を使う必要があります。
例えば、ラインの傷や結節部のチェックには特に気を使う必要があります。また、ある程度の魚の引き込みやチョットしたショックなどはロッドが反応してコントロールしてくれますが、ロッドが限界に至る前には釣り人自らのロッドコントロールを必要とします。
勿論、使用している仕掛けにマッチしたロッドを使う事が前提としての話しでありますが、いずれにしても、全てにおいてウキとのバランスがとれていなければ、これらの釣法を駆使する事は出来ないと言う事なのです。
どんなに高価で有名なウキを用いた釣りでも、タックル全体のバランスがとていない場合には、上手に釣りはできませ
ん。
とにかく釣りに大切なのは、バランスなのです。