釣りはバランス・・・中編  (2003年掲載分)コラムの目次に戻る ホームページのトップに戻る
近年、ロッドも軽量細身でパワーも増強されましたが、それに負けず劣らず、釣り糸(ミチイト、ハリス)も丈夫になりました。
 現在、釣り糸の号数は太さで決まりますが、昔は重さの表示でした。 近年はナイロン、フロロカーボン系の素材で釣り糸は作られていますが、昔は蚕の繭から引き出された糸が素材でありましたから、この素材の長さ一尋(1.5m)の重さを計って、それぞれの重さを表示したもので、貫、匁、分、厘、毛に分類されて表示されたようです。
今の号数からみれば、10号が1分、1号が1厘、0.1号が1毛に換算されます。

 
 従いまして、16号の糸であれば、昔は1分6厘といった具合です。(年配の方ですと、いまだに1分とか1厘の糸とか言って買いに来る人もいます)
 昔の糸の場合、表示の号数が同じであれば強度にそれほどの違いは生じなかったはずですが、近年の素材に変わってからは、その素材選定から製造過程の違いで大きく強度の差が出ますし、糸その物の性質も違ってしまいます。
 これら釣り糸の話しはまたの機会にしたいと思いますが、現在の平均的な釣り糸の強度は(PEラインを除いて)3号で吊り上げパワーは3〜5kg程度であると思います。
 
 3kgと言えば、磯釣りに使うオキアミの3kgブロックの重さですし、5kgであれば、コンクリートブロックの重さに匹敵します。
 早い話しが、3号の糸の強度は、これらの重さを吊るしあげることができる強度なのであります。
 ところがこの辺の事実関係を知らない釣り人が多いのも事実ですから、ロッドと釣り糸のバランス関係で案外単純なトラブルが発生するのです。
 磯釣りでよく見かける光景ですが、根掛かりを外そうと、ロッドをなんべんも煽る釣り人がいます。
 運良く外れれば良いのですが、ほとんどは外れないものですから、更に力を込めて煽ります。
 その結果、ロッドが「バキーン」と凄い音をたてて折損してしまう訳ですが、ロッドが折損した釣り人には、ロッドが弱かったか不良品なのかも知れない等と、首を傾げてしまう人が多いのも事実です。
ロッドと釣り糸の強度バランスを計算に入れていないための、初歩的ミスである事になかなか気がついてくれません。
もっとも折損の原因には、釣り竿の特性も絡んでいる場合もあります。

 自分自身、釣り竿と言ってみたり、ロッドと言ったりで、同じ釣りの竿であるのに、その時々、気分次第?で、無意識のうちに呼び方を使い分けてしまいますが、その辺の矛盾したような表現についてはご容赦ください。
 
 ところで、この釣り竿の特徴、特性、性格などを言葉や文章で表現するのにはかなり難しいものがあります。
 仮に上手く表現したつもりでも、聞いたり見たりする側で、理解できなかったり、もしくは誤解して捉えてしまう事も多いと思います。
 しかし、今回は敢えて言葉だけで釣り竿について語ってみようと思います。
  さて、ここからは釣り竿の事を簡略して、ロッドと呼ばせていただきます。 このロッドですが、調子などを言葉で表現するとした場合、硬いロッドですが、振ってみると柔らかいロッドです。・・・ もしくは、振ると柔らかいのですが、実際は硬いロッドなのです。
 このようにロッドの特徴を説明しようとするのですが、どうしても言葉が短いと訳の判らないような説明になってしまいます。
 実際のところ、このような訳の判らないようなロッドは結構多いものです。
 
もっと判りやすく説明すると、このロッド本体は肉厚であるために、かなり硬めのロッドなのですが、全体に細身に作った場合とか、ロッドそのもののテーパーがかなりゆるく(スローテーパー)してある場合ですと、調子そのものが胴調子(ロッドを振ったり魚を掛けた時など、特にロッドの中央付近が極端にに曲がってしまう)になってしまう事が多いのです。 
ロッドは胴に調子が乗ると硬いロッドも柔らかく感じてしまうものなのです。このロッドの構造自体が硬めに出来ていればいるほど、ボテボテの調子になってしまい、胴ぶれを生じるロッドになってしまうのです。

早い話しが、あまりバランスは良くないロッドと言った方が適切なのかもしれません。
 従いまして、このようなロッドの場合、肉厚で硬く作ったロッドのつもりであっても、加えられたパワーが胴に集中する形となり、ロッドの中央付近から意外と簡単に折損してしまう事態が発生します。
 せっかく肉厚で、硬く丈夫に作り上げたロッドにも拘わらず、バランスが悪い為に折損が生じてしまう一つの例なのです。
 何事もそうなのですが、ちょっとしたアンバランスが悲劇を巻き起こすものなのです。


 最近のロッドは振出が主流になってきています。
もちろん釣りのジャンルや用途によっては並継ぎの方が良い場合も多いのですが、ロッドの総数からみた場合、今やその70%は振出が占めています。
ところが、この振出ロッドがここ近年に大変貌していることに気が付かない釣り人が案外多い様な気がします。

最近のロッドは、比較的に細く、軽く、張りのあるものが多くなった事に気が付く人は多いでしょうが、実は見えない部分が一番技術的に進歩していると言えます。
もちろんロッド本体の素材的進歩や、ロッド製造技術の躍進もさることながら、実際のところは、振出ロッドの各パーツの継ぎ目部分に注目してほしいのです。

 つい近年までの常識では、この継ぎ目をいかにしっかりと丈夫に仕上げるかが課題であったために、継ぎ目部分(パーツが重なる部分)は比較的に長めが常識でした。
もちろんロッドにもよりますので、一概に継ぎ目の長さは紹介はできませんが、現在の倍以上もあったのです。
ところが、ある時に従来のロッドの常識を覆すロッドバランス理論なるものが具現化されて支持されるようになったのです。

「ロッドは曲がるから折れないのであって、ロッドの一部に曲がりにくい部分があれば、その部分からロッドは折れる」と言う事なのです。(これらの理論は、自分も多くのロッドを自作していた関係で判ってはいたのですが、つなぎ目部分を短くする発想には至らなかったのは事実です。)
従って、10年ほど前からこの繋ぎ目が短いロッドが主流になっておりますが、更に進化した今現在、この継ぎ目すらロッド全体のバランスからすれば違和感があるとして、今度はこの継ぎ目部分だけをロッドの素材を曲がり易くする為に、柔らかい素材で作り上げたロッドが出現しました。
ロッドのバランスを究極まで研究し掘り下げていくと、ロッド本体の肉厚は均一で、しかも穂先から竿尻までは同じテーパー角度が理想であるという結論に辿り着く事になるようです。
口で言うのは簡単ですが、実際これら理論をロッドに組み込むのは至難の技である事には違いないと思います。
しかし、これらの技術は案外見えない部分に集積されるために、釣り人からは軽視されやすいのも事実です。
バランスとはロッドで一番大事な要素であるのに、目には見え難いものなのです。