平成4年3月の中旬頃、私の知人が訪ねてきた。用件を聞くと、彼が最近行われた山形県行政会議に出席の際、海洋汚染に絡み、釣り人の使用するマキエを禁止する意見が出され、来春には禁止条例が成立されるようだとの話である。 |
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従って、このままだと同会議に釣り人不在のままで、一方的な禁止の条例化も懸念されるため、私は早速マキエ問題に取り組む釣り人集団である「山形県の海釣りを守る会」を結成した。そして、まず釣具と釣エサメーカー及び関係業者など約60件に現状とこれからの対応について本会の考えを通知し、協力を依頼する事にした。
当面は行政の一方的な条例化を避けるには、行政側に釣り人と |
釣りの関係業者の意見と要望を聞いてもらう必要があるので、業者側が代表し、マキエ禁止には反対の意向を示す必要がある訳で、まずはその運動から開始する事に相成った。
業界の認識の甘さが露呈
ところがである。一部の誠意ある業者を除いては残念な事にまるで無関心、かつ無貴任な反応が返ってきたのである。例えば「山形県以外ではマキエが殆ど禁止されているが、守られてはいない。罰則もないのだから取り締まりも不可能だろう。それに反対運動などを行うと、自然環境保護団体などが動き出すから余計な事はするな」等々。これらの意見がモラルの低い一部の釣り人の個人的なものならまだしも、業界を代表する某大手メーカー責任者の弁だ。
私達が取り組んでいる問題意識からすればあまりにも達うレベルには驚きを越えて呆れてしまったのが事実である。
要は条例で禁止となっても罰則がないから守る必要がないとの意見だ。しかし、今回のそれは他県の事情とはまるで違うのである。本県のマキ工禁止案は漁業者側からの強い要求であり、特にオキアミに関してはエサとしての使用も禁止させたい意向である。今現在の使用状況を見て知った上での漁業者側による話である。条例が先行している他県とは根本的に違う訳で、漁業者(沿岸漁業)感情は釣り人を敵視している。従って、もし条例化されれば、マキエ禁止の条例に従い守らなければならないのである。他県のように無視するような状態であれば注意忠告は勿論、マキエの没収もあり得るし、時と場合によっては漁業権侵害の罰則で検挙される可能性もあるのだ。これは決して大袈裟な表現ではない。それが一般の人達にはない、国が漁民に与えた権利、権限である漁業権なのだ。いずれにせよ釣り人と漁業者とのトラブルが激増する事は明らかである。
マキエ禁止に反対する理由
私達は釣り人の利益だけを考えてマキエ禁止に反対している訳ではない。私達のマキエに関する考えは次の通りだ。
@海から採取したオキアミなどのマキエは、魚族が消費する程度の量であれば、むしろ海の生物に活力を与えるもので、害になるとは考えられない。現に本年も県が実施した庄内浜の海水浴場の水質検査では前年よりさらに水質は向上し、最高ランクのAAとなっている。
A庄内ではマキエを使用した釣法が200年以上も前から行われてきたもので、庄内の釣り文化でもある。
この点は行政も認めているが、以前はヨコトビ(川エビの一種)の生きている物をマキエに使用してきたので規制を保留してきたとの事実関係がある。しかし釣り人側からみれば海に投下されたヨコトビは死滅する訳だから理屈に合わない。むしろ海のプランクトン類を使用した方がべターと思う。
B今、漁業者が釣り人に指摘している海洋汚染や釣り場の悪臭についてはマキエが原因ではなく、マナーの悪い釣り人が放置した残餌やゴミが問題であり、また観光客が捨てていく空カンや生ゴミなども特に目立つ。これらが悪評の要因になっていると思うので、海に投下されるマキ工が特に指摘されるものではない。
以上簡単に取りまとめてみたが、モラル・マナーの悪い一部の人間(これは漁業者も含まれる)のために、マキエ禁止では筋が違う。これらに関しての意見は私の主張として6月の中句に山形新聞紙上に掲載されたもので、7月の中旬には私の意見に対し、行政側よりの回答として、一方的に規制するのは難しいので、実態調査を進めながら論議を続けたいとの旨で、一歩前進した形で水面下での取り決めだけは避けられる事になった。
その後9月に、県の水産事務所によるマキエの実態調査として、マキエに関するアンケート調査が、関係販売業者60社(店)及び釣り人数百人に対して実施されている。これらの結果は別として、私達は今後とも行政と漁業者に接し、マキエに関する話し合いを続け、これからもマキエが使える山形県の海釣りを存続させるべく頑張っている。私達の運動に協力いただいている方々にはこの誌面を借りて厚く御礼申し上げます。
まずは釣り人から衿を正そう
最後に、釣り人のマナー向上のため、現在私達に認められている漁具と漁法を紹介すると、@竿釣り及び手釣りAたも網及び又綱(サデアミ)Bやす(船は使用しない)C歩行徒手採捕、以上となっている。従って船によるトローリングはできない事になっている。
以上は山形県の条例だが、他県でもほぼ同じような決まりになっているはず。ところが面白い事に?@の竿釣り及び手釣りしか認められていない釣り人はマキエは出来ない!!の条例解釈でマキエ禁止されている場合が多いのだが、山形県はそのようなとらえ方はしていない。日本語の難しさ、条例規定の曖昧さが良くも悪くもなる訳だ。
余談ながら参考までにと書いてみたが、とにかく今釣り人の1人として出来る事は、釣り場を汚さない、ゴミは持ち帰る、海難事故の防止に努める、漁業者とのトラブルは避けるなど、お互いに気を配り、これからも健全で楽しい釣りが続けられる事を祈念して、また続きます…。 |
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平成4年3月15日(日)
地元紙「荘内日報」より |
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釣り人に人気の「オキアミ」
マキ餌庄内浜で禁止の動き
餌(えさ)の革命児といわれ、釣り人に入気がある「オキアミ」だが秋田、新潟県同様、庄内浜でもオキアミのマキ餌(え)を禁止する方向に動きだした。登場以来、主役の座を守り続けてオキアミは、庄内の磯釣りでもサシ餌、マキ餌に最も多く使われているが、漁業者らから「いそ環境破壊の原因につながる」として、マキ餌の禁止を求める声が上がり、県の海区漁業調整委員会でも検討を始めた。
日本海側10府県で制限
県海区漁業調整委で検討
オキアミは、ブラングクトンの一群である甲殻網オキアミ科の織称で、世界各地の海洋に生息。釣りに使われているのは主にナンキョクグオキアミで、南極海のほぼ100m以浅の表層に群生している。
釣りに使われ始めたのは関西方面からで、抜群の集魚力があることから一挙に全国へ広まり、いその上物釣りを変えてしまった。庄内には約15,6年前に導入され、小物釣りから平物釣りまでの「万能餌」として利用されている。
特に、メインのクロダイ釣りでは、サシ餌だけでなくマキ餌として大量に使われ、3kg前後のオキアミを購入し粉餌などと混ぜ合わせマキ餌にしている。中には15kgも購入して遠征に出かける太公望もいる。
しかし、近年、オキアミの使用によって「大量のマキ餌が海底に沈殿し、貝に影響を与えている」とか、「独特の臭いがワカメに付着する」「放置されたオキアミが腐敗し、海岸線に悪臭が漂っている」「岩ノリ漁に影響が出ている」など、海洋汚染やいそ環境の被壊、漁業被害の原因と問題視され、本州の日本海側12十二府県では、鳥取県と山形県を除きすべての府県でオキアミの使用について何らかの形で制限をしている。
いそ釣りのメッカとして知られる男鹿半島を抱えている秋田県では、県漁業調整規制によって遊漁者の漁具・漁法に制限を加えており、竿〈さお〉釣り及び手釣りの場合、すべてのマキ餌を禁止している。また、新潟県でも県漁業調整規則によりオキアミのマキ餌が禁止されている。
本県でも、以前からオキアミのマキ餌使用については、漁業者を中心に禁止の話が持ち上がっていたが、最近、いそ焼け現象の問題とともにオキアミのマキ餌使用が話期となり、去る一月に開催された県海区漁業調整委員会(池田吉雄会長)でも議題になったほか、県海区漁業調整協議会(榎本昭蔵会長)や鶴岡市議会の三月定例会等でも取り上げられ、禁止の方向に動き出している。
注)平成13年現在、山形県ではマキ餌の禁止は、私達守る会の運動もあり、保留されている。 |
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