緊張


 
無理矢理詰め込まれた人のせいで車内が狭い
乗り込んだ人の体温で、いやな熱が篭もっている
その上、背後から感じる突き刺さる様な視線
空気が悪い、雰囲気が悪い
息苦しい………
後部に座った彼等の内、ゼルとセルフィは時折話し掛けようとしてくれているようだ
―――実際、彼等2人からは、射すような警戒に満ちた視線は感じない
だが、彼等が口を開こうとする度、サイファーが殺気をはらんだ視線で押しとどめている
彼等の置かれた状況と、彼等がここにいる経緯を思えば、この態度は当然、なのかもしれない
けれど…………
隠すつもりもないらしい、殺気と
しっかりと抱え込み、握りしめた武器の存在
『気にする事はない』
そう言われはしたが、気にしないで居られる筈がない
もし、この狭い空間で、攻撃を受けたとすれば、勝てる保証はない
俺たちが置かれている状況も、危険性も俺以上に分かり切っている筈
その筈だと言うのに、全く緊張した様子も無くいつもの調子で車を運転している
緊迫した空気のまま、無言の時間が過ぎていく
空気に耐えきれなくなり、スコールが小さく息を吐き出したその瞬間
「それで、あんたたちの狙いは何だ?」
狙い澄ませた様にサイファーが口を開いた

サイファーの言葉にぎょっとしたような視線を向けたのは、共に行動している奴らのみ
前に座った2人は反応しない
………違うか、若い方は驚いているわけじゃないが反応はしてるな
「ちょっと、サイファー……」
「敵ってわけじゃないみたいだが、何か目的はあるんだろ」
わざと挑発する口調を使う
大して武器も持って居ない様だし、特別に訓練を積んでいる様にも見えない
挑発に乗るようなら、力にモノを言わせるって事も可能だ
サイファーは口元に笑みを浮かべる
不気味なのは、あの余裕ってとこか
だが、それも気になる程じゃない、わくわくするぜ
「……ふむ、目的か」
含みを持たせた様なわざとらしい口調、バックミラーに映ったその目が面白がっている
わざとなのか、偶然なのか、神経を逆撫でする様な態度って奴だ

キロスの言葉にあわせて、サイファーの気配が微かに変わる
余り刺激しない方が………
言葉には出さないながらも、抗議の視線を送る
「さて、君達は、『魔女』と聞いてどういう感情を抱くかな?」
態度を改め、キロスが、真剣な口調で語り始めた
―――魔女に対する感情を

魔女戦争の事は知っているか?
ではその頃何が行われたかも?
…………………詳しくは知らないか
エスタの引き起こした戦争
確かに、その通りだ
そして最終的にはエスタ対ガルバディアという対立構図が出来ていたが、そればかりではない
あの頃のエスタに対する恐怖というものは、エスタという組織にではなく、『魔女』という個に対して生まれたものだ
人間一人に恐れる事は無いと思うかね?
君達若い者には、伝えられていない事も多い
恐怖の余り思い出したくない、口にしたくもないという感情に基づいているとは考え無いかな?
それだけ『魔女』が行った事は恐怖の対象に成っている、そういう事だ
私も含め、あの時の事を覚えてる人間は、『魔女』に対して良い感情は抱かない
抱いていない筈だ………
―――そう、そういう事だ
今このときに、『魔女』を持ち出したガルバディアの状況が気になるという所だ

―――魔女『アデル』
世界中に、それ以上にエスタという国に恐怖をもたらした一人の魔女
アデルが何をしたのか、俺はよく知っている
色んな出来事がアデルのせいで起こって
そして、アデルのせいで今の自分がある事も………
キロスの言葉に耳傾けながら、スコールは、暗い表情で俯いていた
 
 
 
 

 To be continued
 
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