記憶


 
スコールが語る昔の話
例えば、もう居なくなった教官の事
例えば、出来たばかりのガーデンの様子
今はもう存在しない、施設の話………
スコールの口から語られる言葉に、忘れていた記憶が引きずり出される
それはあまりにも遠い記憶で、はっきりと判る訳でも思い出した訳でも無い
だが、スコールが語るのは、紛れも無く、バラムガーデンの姿
そこに居た者しか語る事の出来ない様子
サイファーは、確認する様にスコールを見る
覚えている顔ではない
―――顔なんか覚えているはずもない
なんの設備も整って居なかった頃
当然の様にそこに居る人間も少なかった
もちろん子供なんていうのは…………

弱いくせに、強気な目をしていた
勝てないくせに、反抗的だった
簡単に言えば気に食わない
何故かと問われればそりが合わない
お互い良い感情なんか持ち合わせていない相手
だが、人が居ないお陰で何かというと組まされた相手
いつのまにか居なくなって
当然の様に忘れ去った相手

「良い思い出なんか、欠片も残っちゃいねーだろ?」
スコール………そういやそんな名前だったな
「まったく、無いな」
間髪入れず帰ってくる言葉
そりゃ、そーだろうよ
本当に本物のあいつだってんなら、俺に関して良い感情なんて一欠けらも持てねえよな?
「サイファー!?」
ゼルが素っ頓狂な声を上げる
うるせえ奴だな、これだけで全て信用したって言ってる訳じゃねーだろ?
話だけなら誰かに聞いたって事も考えられる
それこそ、本人に聞いたってこともな
「悪いが、俺は顔なんか覚えて無いぜ?」
「俺だって、覚えて居なかった」
きっぱりと言い切る言葉に、ハンドルを握りながら、キロスがやれやれと言った感じで首を振った

問答、というまでは行かないが、それに近い対話が続く
元来俺はそんなに我慢強い方じゃねぇ
いつもならとっくに投げ出していたはずだ
だってのに、まだ話が続いてるってのは、別に俺が我慢強く聞いてって訳で無く、キロス……あのおっさんが、絶妙なタイミングで矛先を逸らすからだ
お陰で続けたくも無い話続けて………
おかげさまで、思い出した
「あれだけ武器が使えるッて事は、いなくなった後も訓練したんだろ?なんでだ?」
あいつの言葉、口癖って奴だ……
「ねえさんを探す為だ」
条件反射の様にすぐさま返る言葉
多少言う事は変わってるが、全く同じじゃねーか
お陰で、思い出す気も無かったって言うのに、思い出すはめになったろうが
「……………親父は良いのかよ?」
どうも気が抜けて、ため息混じりの質問に
「父さんが迎えに来たから、ガーデンを離れたんだろ」
バツが悪そうな顔で、投げやりな答えが返ってきた

長い話の上、ようやく判明した事
考えて見れば、『何者か』なんて質問ほど曖昧な問いかけも無いわね……
キスティスは、先ほどとはまた違う、微妙な空気を漂わせる少年2人に視線を向ける
バラムガーデンに居た事があって、その時期に武器の扱いを一通り学んで……
その後も、目的の為に無理言って、元兵士の父親達に………か
キスティスは、交わされた会話を組み立て反芻し
筋道は確かに通ってるわね
そう認めざるを得ない事を認めた
 

 To be continued
 
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