下準備
バラムガーデンの一室
ファウロは、とりあえず扉へと鍵を掛ける
床の上へと突然倒れ込んだ少女を抱き留めたのは良いのだが………
「この状況は、かなりまずい気がするんだがな」
この状況が見つかれば、自分の身に何が起きるか一目瞭然だ
「話しなんて聞きそうも無いからな」
この少女を大切に扱っているのは、遠目で見ていても良く分かった
たぶん、きっと、部屋を覗いたら突然倒れた、なんていう事実は受け入れて貰えない
「それに大事な話もあるからな」
この機会を逃すわけには行かない
窓の外には人の姿は見えない
「……さて……」
閉じこめようという意図の無い窓はあっさりと開く
「それじゃあ、人攫いになりますか」
開け放した窓から吹き込む風がカーテンを揺らす
外には人の気配は無い
人の視線も感じない
後は、着地地点の確認だが……
「ま、その時はその時ってな」
少女を腕に抱き、ファウロは窓の外へと飛び降りた
古い家の中での大捜索が続いている
エスタに行ってから十数年様々な事が起きるが
「さすがに、他国の隠れ家で家捜しする羽目になるとはな」
オルロワはサイドボードの引き出しを取り出しながら口の中で呟く
舞い上がる埃に顔を背ける
隠れ家としてキロスが手配して来たこの家は、なんの事は無い、彼等の家だったらしい
さほど広くはない家の中、あちこちで埃が舞い上がっている
捜してるモノは、“この辺にあるはず”という勤務表
勤務するにも仕事先が砂の中では意味が無い為、浮上時刻もまた表示されているらしい
「さっさと帰れば良かったかもな…」
帰国命令は受け取ったが、どうせだから、とこの場所に留まって居た事が今回ばかりは仇になったようだ
目を背けたくなる様なモノは見つかるが
目当てのモノは一向に見つからない
「本当にあるんだろうな?」
「…………」
「どの辺りかくらいは思い出して欲しいな」
向こうの部屋から、思い出したようなやり取りが聞こえる
単に隠れ家として使っていた時には気付かなかったが、物が整理されずに場所を問わず押し込んである
使わない物はとりあえず入れておけっていう方針が嫌になる程良く見える
こうやって見てみると、大統領とそれほど大差無いって気になってくるよな
「……見張っている方が早い気がする……」
引き戸を開いたとたん雪崩うって現れた品物
「……同感だな」
オルロワは、埃の向う側にいる筈のスコールへとため息混じりの返事を返した
辺りを覆うのは静寂
分厚い壁は何の音も通さない
共に閉じこめられた奴等は魔法にでも掛かっているのか、どんなに声を掛けても、刺激を与えても目を覚まさない
暖かい身体は死んだ訳では無い事を伝えている
短いとは言い難い時間が、ただ過ぎていく
此処がどこかは解らないが、楽しい場所で無い事は確かだ
もしこのまま此処に閉じこめたまま永久に放っておくつもりなら、早い所手を打たなければならない
「飢え死になんてのはごめんだからな」
扉の状態はそう悪く無い
頻繁に、とは言い難いが何度か開け閉めした形跡が在る
って事は無人って訳じゃねぇ
武器を握る筈の右手を何度か握る
なら幾らでもチャンスは転がっている
そいつを有効に使うとなると……
ちらりと、転がったままの2人へと視線を投げた
To be continued
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